2013年11月7日木曜日

車の運転と医療用麻薬

みなさま

今日は、ちょっと変化球の話題です。
がん患者さんの痛みに医療用麻薬(オピオイド)が処方されることも、今や日常的となり、早期からの緩和ケアが実践されるようになってきました。これによって、最近ますます切実な問題となっているのが、がん患者さんの慢性痛でオピオイドが長期的に使用されている場合に、どのような状況であっても、車の運転をしてはいけないか、という問題です。運転を趣味にしているのならまだましなほうですが、仕事や生活に車の運転が必須な人は、決して少なくありません。痛みがひどいのに、なるべくオピオイドを処方しないで様子をみることになっている理由に、もしかしたら、車の運転ができなくなってしまう、という点も絡んでいる可能性も十分あると感じています。

医学的なことを言えば、慢性痛にオピオイドが定期的に同量が使用されているのであれば、事故につながるような運転能力の著明な低下はみられない、とされており、これは、緩和ケアの代表的な教科書、Oxford Textbook of Palliative Medicine 第4版 P690 に記載されています。

上記の教科書の内容が本当なら、日本でも運転してよいか、といえばそうとはなりません
それぞれの国の人々が作った法律の下で生きるのが法治国家の人間というものです。ですので、日本人は日本の法律を守っていきていかねばなりません。もし、その法律が理不尽だと思えば、それを変更しようと努力して、そのための世論を作るように努力をしなければならないでしょう。

現状では、どのような状況であっても、オピオイドを使用している患者さんが車の運転中に事故を起こしたら法的責任を逃れることは困難です。

自分には問題ないと思えても、事故で他人に害を及ぼす危険が少しでも上昇する可能性があるのですから、常識的に考えても、医療用麻薬の処方を受けている患者さんは運転を控えるべきと考えます。

こうした患者さんから医療用麻薬を飲んでいても、なんとか運転できるようにできないか、という質問があるので、私自身よい考えがないかどうかと、ここ数年ずっと考えてきましたが、患者さん側ではなく、生じうる被害者のリスクを考えると、現在の法律を変えることは現実的とは思えません。

いっそのこと、ここは発想を変えて、こうしたがん患者さんが無理に運転しなくても、安心して生きていける社会の在り方や仕組みをつくる努力をしていく方が建設的な対応だと思われます。

医療用麻薬のみでなく、運転能力に影響がでる可能性のある薬を慢性疾患治療のために常用している人の運転能力や事故時の法的扱いの在り方について、これからも活発な議論がなされることが望ましいと考えます。

(文責 関根)