2012年11月22日木曜日

11/19 院内緩和ケアレクチャー ~終末期における鎮静

今週の院内レクチャーは、“終末期における鎮静” をテーマに扱いました。
教材は、緩和ケアフォローアップ研修会で用いられているものを使いました。

まず冒頭で、終末期の鎮静の治療やケアに関わったことがあるかどうか、と尋ねたところ、半数程度の聴講者が経験がある、と答えました。

医師、看護師、薬剤師らの多職種が集まり、症例について3回ほど、5分程度のディスカッションの時間をとって、症例ベースで患者の苦痛をどのように評価し、対応すべきか、また、鎮静が適応になるかどうか、について考えをまとめ、グループごとの意見を交換しました。

なお、この講義は、鴨川国保病院と安房地域医療センターにも中継され、この2施設の参加者とも
意見交換を行いました。

1時間の枠の中では、消化しきれないほどの多くの内容でしたが、参加してくださった皆さんにとって有意義な学びの機会になったでしょうか?

一方向性の講義ではなく、グループディスカッションの時間を設け、それぞれが意見を発表しあうような形式の方が、やはり参加者の学習意欲が刺激されますし、多職種間のコミュニケーション促進にとっても有益であると今回も実感できました。

今年度の院内レクチャーも、あと残り2回となりましたが、終盤戦も頑張りましょう。


清水わか子先生講演会

先週金曜日(11/16)に、お隣のがん診療連携拠点病院である、君津中央病院で放射線治療医としてご活躍の清水わか子先生による講演会が当院で開催されました。

タイトルは『放射線治療と症状制御: by radiation と for radiation 』です。

清水わか子先生は緩和ケア研修会のマスターファシリテーターとして日本各地でご活躍ですが、この講演会では、先生のご専門領域である放射線治療に関する基礎的な事項から、個々の症例でどこまで治療が可能なのか、どのような個別対応が可能かといった内容まで分かりやすく明快にお話下さいました。

とりわけ印象的だったのは、先生が患者さんやご家族と納得のいくコミュニケーションをとりながら、最善の治療方針を絶妙のさじ加減で組み立てておられることです。

緩和的放射線治療という用語については、治癒に近いところまで目指せるケースから疼痛緩和のみが目的の場合まで広範囲の治療を含むため、先生ご自身はこの用語を使わないようにされているとのこと。

放射線治療の領域でも過去のエビデンスは、時間が経過しているため、患者の治療予後予測などは、データ通りにはならない傾向にあること、エビデンスが少ない部分に関しては、最新の知識と
技術を駆使して、治療における利益とリスクと天秤にかけながら、治療方針を決めておられるとのことです。

一言で放射線治療といっても、治療ゴールによって治療内容は異なることが分かりました。また放射線治療領域では、治療医の専門性や力量によっては、患者が受けられる治療内容が違ってくる可能性も大いにあること、についても今後の課題であると感じました。

清水先生、ご多忙な中貴重なご講演ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。







2012年11月19日月曜日

小児緩和ケア教育研修

緩和ケアチームのための小児緩和ケア教育研修(Care for Life-threatening Illness in Childhood Pediatric PalliativeCare Education Program for Palliative Care Team=CLIC-T)に参加してきました。http://kanwaedu.umin.jp/clic-t/ 


場所は大阪市立総合医療センター。
全国から80名弱の医療者が集い、上記サイト内の学習項目を集中的に学んできました。


『小児緩和ケア概論』では、成人との共通点や違いを確認しながら、小児ならではの問題(経過の多様性や成長と発達における問題、倫理的問題や家族ケア)について考えました。成人と違って、疾患が多岐にわたる(がんだけではない)ことや、子どもは発達・成長すること、自己決定権の問題、重大な病気を患った子どもの親御さんや兄弟姉妹の気持ちの問題等々、決して容易ではありませんが、それでもチームとしてサポートすることの重要性を強く感じました。

『小児の疼痛』では、痛みの評価、治療を症例をベースに考える形で学びました。成長・発達段階での痛みの体験は長期的に悪影響を及ぼすという報告も複数あり、大人同様に適切な評価・治療が必要です。しかし、子どもの訴える痛みは、コミュニケーションの難しさから(大人以上に)過小評価されやすいということもまた事実です。
ここでは小児の疼痛に対する適切な評価と有用なツール、治療面では今年改訂されたWHOの小児疼痛ガイドライン(ICPCNのサイトから無料で閲覧できます➡WHO guidelines on the pharmacological treatment of persisting pain in children with medical illnesses
をベースに、2段階の治療(成人ラダーは3段階ですが小児は2段階)や、非オピオイド・オピオイドの推奨薬や開始量等々、成人と共通する部分・異なる部分を意識しながら学びました。その他にも両親の関わりを担保することや、非薬物的ケアについても考えさせられるセッションでした。

『小児医療と倫理』では、(成人にとっても十分にデリケートな話題である)延命治療の是非や治療の中止・差し控えの問題について、小児のケースで状況の異なる症例をグループで話し合いました。倫理理論における帰結主義(結果の善し悪しによって判断)や義務論(結果によらず従うべき義務に則る)や医療倫理の四原則、欧米での治療中止・差し控えの現状、ガイドラインや判例も組み込まれた、とても濃いセッションでした。

『死が近づいたとき』では、やはり症例をベースとして①症状緩和②ケアの見直し③家族との対話のポイントをグループで話し合いました。子どもだから苦痛を感じない、ということはなく、最後の1ヶ月ではその多くが成人と同様に疼痛、倦怠感、呼吸困難などの苦痛を感じているという報告があります。このような状況下でできること・やめたほうがいいことは何か、鎮静の問題、本人・家族に対していつ何をどの程度共有しておくべきか、などについて、話し合いました。

『ビリーブメント(親しいものとの死別)』では、子どもを亡くすということが家族にどんな影響を及ぼすのか、どのようなケアが好ましいのか、医療者の役割とは何か、患児の兄弟姉妹へのケアなどについて考えました。また、後半ではがんの親を持つ子どもへのケアについて、何をいつからどのように伝えるか、避けるべきこと、子どもに病気のことを話すヒントなどについても紹介していただきました。

非常に有意義な一日でした。

これだけの研修会を企画運営してくださった関係者の皆様に心から感謝するとともに、このご苦労に報いるためにも、現場でこれを活かしていきたいと思います。



2012年11月13日火曜日

緩和ケア研修会@三井記念病院

だいぶ寒くなってきました。

この時期は学会や研修会が数多く開催されるシーズンでもあります。

その中の一つに『がん緩和ケア基礎研修会』というものがあります。

この研修会は国のがん対策基本計画のもと、5年前から主に全国のがん拠点病院などで定期的に開催されているものです。(緩和ケア継続教育プログラム『PEACEプロジェクト』

日曜は都内秋葉原にある三井記念病院におじゃましてきました。

ここには当科フェローシップを修了したH先生が赴任されており、そのご縁で昨年から研修会のお手伝いをさせてもらっています。

三井記念病院というと、なんとなく“心臓(循環器)に強い病院”、というイメージなのですが(日経ではこんな特集も組まれていましたhttp://ps.nikkei.co.jp/toshiba/mitsui/index.html)、実は緩和ケアにも非常に力を入れている病院です。
もちろんH先生や緩和ケアチームメンバーの日々の努力によるものと思いますが、第一回の研修会には院長の高本先生自らも参加されたそうで、まさに職員一丸となって緩和ケアに取り組もうという姿勢が感じられます。

ちなみに高本院長は昨年(第2回)も今年も研修会にお越しになり、参加者・スタッフへの労いの言葉とともに修了証を手渡していました。
最後に、
『緩和ケアを必要としているのは、がん患者さんだけではありません』
『緩和ケアは私たちが日頃行っている医療の根底を支えるものだと思っています』
と話されていたのがとても印象的でした。

昨年同様、とても心温まる研修会でした。

聞けば三井記念病院では、スタッフから上のクラスの医師はほぼこの研修を修了しつつあるそうで、次回以降は2年次研修医の参加をさらに促したり、地域の医療者の方々にも門戸を開いていくことを考えているそうです。

当院も来年1月に緩和ケア基礎研修会を開催する予定であり、これに向けてしっかり準備を進めていきたいと思います。

2012年11月12日月曜日

緩和的抗がん治療をうける患者の病状認識調査から分かったこと

先月のニューイングランドジャーナルオブメディシンで報告されていた高度進行がん患者の、緩和的抗がん剤治療に関するコミュニケーションに関する文献に関する評論です。
http://blogs.plos.org/workinprogress/2012/11/07/why-do-people-with-advanced-cancer-undergo-chemotherapy/

緩和的抗がん剤治療を受けている患者は、その治療についてどこまで理解しているのでしょうか、どのようなコミュニケーションを行う医師を好ましいと判断しているのでしょうか?この研究は、これらの点について全米各地で調査を行いました。米国の今回の研究で、多くの患者(半数以上)が緩和的抗がん剤治療で、病気が治るという認識を持っていたという結果がでています。

率直な話を杓子定規にすればよいというわけもありませんし、かといってあまりに非現実的な考えがでてきてしまうような説明では、残された時間をしっかり生きることに支障が生じてしまいます。
患者の性格や家族の意向によっても、説明や伝え方について配慮が必要ですから、この部分こそ、まさに医師としてのアートの力量が試される部分なのだ、と思います。

本日のDr. Moodyとのセッションもこの論文について話し合いました。米国では、悪い知らせを伝えるコミュニケーションのための教育やワークショップがこれまでさかんに行われてきたけれども、それにも関わらず、この文献のように、多くの患者が誤った認識をもっていることを示したこの研究は、この問題の複雑さ、難しさを物語っているという御意見でした。
米国では医師は家族への説明はともかく、患者自身にいかに病状について伝えるか、という点に大変多くの労力を使い、心を砕きます。患者が自分の病気について、知らないことは、
大切な自己決定権の侵害になり、自分自身が将来の生活プランを立てることができなくなるからです。そうした米国でさえ、進行がんにおけるコミュニケーションの結果がこのような状況なので、
日本で同じ研究を行ったら、もっと現実と病識のズレが大きいという結果になるように思います。

患者の側にしてみれば、悪い知らせを伝えられておらず、やさしく応対してくれる医師を好ましい医師であると、当座は思うことでしょう。この研究では、現在抗がん剤を受けている時点での患者の医師への評価を問うているわけです。ただ、もっと後になって、患者に率直なコミュニケーションをされた場合とそうでなかった場合に、どのように医師からのコミュニケーションを振りかえるのでしょうか?あの時に医師が率直に話をしてくれたおかげで、自宅で良い時間が過ごせた、と思う患者も中にはいるかもしれず、今回の研究は、そうした後々になっての評価については調べておらず、この点についてはなんともいえません。

多面的な問題を含み、結論がでなさそうなこのテーマですが、引き続き周りの関係者や、一般の方も含めて話し合っていくことが必要です。(文責 関根)











2012年11月6日火曜日

DNAR指示が一人歩きをはじめるとは?~箕岡真子先生の講演会より~

先週11月1日に、東京大学大学院 客員研究員の箕岡真子先生による終末期ケアにおける医療倫理と題する講演会がありました。これは、当院の倫理問題検討委員会が主催したものです。
折しも、当院で院内事前指示委員会が発足したばかりのタイミングでの講演でした。
ご講演は大変盛りだくさんの内容で、3回分の講義を1回分にまとめてくださったような内容の濃さでした。

箕岡先生は、『私の四つのお願い』という、一般者への事前指示ガイドを書かれた先生として
知られています。
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4863510357_1.html

また、一番最近では『蘇生不要指示のゆくえ』というDNAR指示についての御著書があります。
http://www.amazon.co.jp/%E8%98%87%E7%94%9F%E4%B8%8D%E8%A6%81%E6%8C%87%E7%A4%BA%E3%81%AE%E3%82%86%E3%81%8F%E3%81%88-%E7%AE%95%E5%B2%A1-%E7%9C%9F%E5%AD%90/dp/4863510527

DNAR指示がついたとたんに、医療現場では治療ゴールを巡って、患者・家族や医療者のそれぞれの立場から物語が発生します。箕岡先生は講演でこのことを“DNAR指示が一人歩きを始める”と表現されていました。こうした状況は、一般の人には殆ど知られていませんが、実は我々医療者が日常的に行っている医療行為における決定プロセスが倫理的に大きな問題をはらんでいることも少なくありません。まずは、一般の方にもそういった状況の存在を知ってもらい、この問題を自分たちの問題として考えてもらいたいとの思いで、この著書をお書きになられたとのことです。

日本臨床倫理学会という学会が新たに立ち上がったことも今回教えて頂きましたので、私も早速この学会に入会しました。こうした学会活動を通じて、現場での倫理的問題が広く話し合われ、今後の医療のあり方を国民が主体的に考える材料が提供されるように、現場の声を発信していきたいと思います。                                           (文責:関根)





2012年11月2日金曜日

緩和ケア科ー精神科抄読会

本日はこの書籍から⇒緩和医療における精神医学ハンドブック [単行本]

お題は『進行した疾患をもつ患者への個人精神療法』について。

・進行した疾患をもつ患者が(疾患によって)どんな苦悩を持ちうるのか
・精神療法の適応と種類

などを中心にディスカッションを行いました。

その中で話題になったのが『対人関係療法』。

これはうつや摂食障害にも有効性が示されているそうです。

つまり『重要な人間関係における葛藤や問題を解決すること』が、治療になる、ということです。

HIV陽性の患者さんや乳がんの患者さんに対する最近の研究でも『有用である』とのこと。

さらに治療や研究のためのマニュアルもあるそうです。

非常に興味深いですね。

具体的な方法などは、また次回のお楽しみということで。

O先生、来週も宜しくお願いします。

大西秀樹先生の講演会

家族ケアや遺族ケア外来のパイオニアである、埼玉医科大学国際医療センターの大西秀樹先生による講演会が、“がん医療における心のケア”と題して、今週月曜日に開催されました。

ご講演では、がん医療で、抑うつが身体症状のなかで見過ごされやすいこと、様々な改善困難な身体症状が抑うつ関連症状である場合に、抑うつへの薬物治療が奏功しうることなど、サイコオンコロジーにおける重要なポイントをご教示くださいました。

ご講演の後半部は、患者さまやご遺族へのケアの実例の紹介でした。
うまくケアできた症例と、困難な症例をともにご紹介くださり、医療者としていかようにアプローチしても困難な症例がやはり存在するということ、医療者の限界を知ることの大切さ、チーム医療でサポートし合うこと、困った症例に出会ったらその困難について仲間と話し合うことの大切さ、などについて
分かりやすく解説してくださいました。

埼玉北部から南房総の鴨川へと、関東平野の対角線を横断して来てくださった大西先生ですが、
当院の霊安室をご案内中には、正面の窓に真ん丸の月が浮かんでおり、一同、固唾を呑んでその光景にしばし見とれておりました。

今回のご講演を契機に、家族や遺族へのケアについて学びを少し深くすることができました。
大西先生、ありがとうございました。

※大西先生のことをもっと知りたい方のために参考になるサイト。先生の温かさがにじみ出ています。
『愛する人を失った悲しみとどう向き合ったらよいのだろう 大西秀樹先生 インタビュー』
http://www.hiruru.net/saitamamduniv/2011/01/psycho-oncology01.html