2013年5月30日木曜日

医療用麻薬が基幹病院の薬局にない?!

今日は、先日実際にあった話を紹介します。

ある外来患者さんを、自宅近くから通えるように近隣施設へ紹介したときのエピソードです。

フェンタニル貼付剤が必要な患者さんで、その管理も含めて、継続フォローの依頼をお願いしました。地域の基幹病院の外来を紹介したので、とくに問題発生などないと思っていました。ところが、予想外の問題が発生していたことを、後に再び外来に現れた患者さんから聞いて知りました。

なんと、フェンタニル貼付剤の一人分の処方量が病院にない!ので、近隣のありとあらゆる薬局に連絡をとって、おそらくその地域のほぼすべてのフェンタニル貼付剤をかき集めて、漸く必要量を確保できたのだとか、、、。

そんなこともあってか、この患者さんはまた私の外来に戻ってこられました。

病院の薬剤部としては、管理が面倒な医療用麻薬の在庫をなるべく減らして、日々業務を行っていることは理解できます。しかしながら、地域の基幹病院内の薬局なのに、1人分のフェンタニル貼付剤の処方量の在庫がない、というのは私にとっては、嘘でしょ!と叫んでしまうほどのショックでした。

麻薬の消費量は、米国のように、多ければ多いほどよいというのではありませんが、がん疼痛管理を反映する数少ない指標の一つとされています。日本はつい最近、お隣の韓国にさえ、麻薬消費量で追い越され、先進国の中では最低レベルであることは有名です。

麻薬を使用している患者を、ある施設から別の施設へ紹介する場合に、こうした事態がたびたび生じるようでは、安心して患者紹介を行える状況にない現状を思い知らされました。
痛みの医療に問題が山積していますが、こうした麻薬の管理や運用面でも改善に向けた取り組みが必要です。

(関根)

2013年5月28日火曜日


5/10 DPMPCジャーナルクラブより

Randomized controlled trial of a video decision support tool for cardiopulmonary resuscitation decision making in advanced cancer.

 2013 Jan 20;31(3):380-6. doi: 10.1200/JCO.2012.43.9570. Epub 2012 Dec 10.





論文の要旨は以下。
進行癌患者さんに対して

「もしも心臓が停止した場合に心肺蘇生法を希望するか否か」について

その意思決定を支援するための『ビデオ』の効果を調べた。

4つのがんセンターで150人の進行癌患者さんに対して研究を行った。

(150人中)80人は言語による心肺蘇生法と救命成功率について説明を受けた

残りの70人は同じ説明を聞いた後、模擬患者に対して行われる心肺蘇生法や人工呼吸器について3分間のビデオを見た。

結果どうなったかというと、

説明のみのグループでは38(48%)が心肺蘇生法を希望、41(51%)が希望せず。

ビデオを見たグループでは14(20%)が心肺蘇生法を希望、55(79%)が希望せず。

この研究は、あらかじめ患者さん本人が1年以上生きられないと説明を受け、理解できている人に対して行われている、という点が日本の現状とは大きく異なる点です。
この研究が行われたアメリカでは、自分自身で意思決定を行うという文化的背景があります。より良く生きるために、納得のいく選択を行う。

それを支援するためのツールとして、口頭での説明よりも視覚的イメージがあった方がより効果的、という、結論としては納得いく研究でした。

正しい情報を得て、もしもの時に備えて元気な時から自分の意思を話し合うことで、より良く生きることが出来るのかも知れません。(濱口)

2013年5月23日木曜日

腫瘍内科との症例検討会

昨晩、腫瘍内科の若手医師のみなさんに招かれて、患者症例を含む緩和ケア関連の日頃の疑問の解決を目的として、Q&A形式でディスカッションを行いました。

私が赴任した6年前、当院の腫瘍内科には医師は、2名しかいませんでした。ところが、現在は、ローテーターも含めると医師数は10名に届くような一大勢力になっています! 
今年入職された先生方も多く、オリエンテーション的な質問内容も含め、ざっくばらんな楽しい時間となりました。簡単な自己紹介ののち、以下のような質問項目等について話し合いました。

質問1.当院では、専門的緩和ケアを受けたいと希望した場合にどうすればよいでしょうか?

答え:亀田には緩和ケア病棟はつくらず(作ることができず)に現在に至っています。一番の問題は看護師が足らないことです。看取りを当院で行うケースでは、主治医チームと併診の形で、緩和ケア科(チーム)がサポートさせてもらっています。

質問2.緩和ケア科(チーム)に併診してもらったときに、どういうプラスのケアが可能でしょうか?

答え:症状のコントロールについては、主治医チームのスキルも最近は向上しつつあり、緩和ケア科の介入が必要ない症例が多くなっている印象もあります。ただし、主治医ではなく、第三者である緩和ケア科(チーム)の介入によって、より俯瞰的な立場から、患者さんや家族にとって最良のケアや、困っていることへのサポートを追加することができたりします。
また、どういう治療ゴールを選択されるのがよいのか、主治医チームが煮詰まっておられるような場合にも、第三者的な立場で、患者さんや家族の意思決定の支援を行える場合があります。
さらには、スピリチュアルな悩み(答えがでないようなつらさ)について、主治医チームのスタッフが対応に苦慮されている場合などでも、医療的な内容の詳細な検討を離れて、より患者さんの生活の視点から、具体的なサポートを提案することができたりします。
お気軽に、緩和ケアチームにご相談ください。

質問3 予後が極めて厳しい患者さんで、ご家族の悲嘆が大変強い方がおられます。担当医として蘇生しない(DNAR)ということの説明を今現在、事前に行うことは、教科書的には必要だと理解してはいる。しかしながら、悲しみのどん底にいるこの家族に、DNARの説明をすることは、心情的な負担を与えてしまうため、家族のつらさを想像すればするほど、できなくなってしまいます。家族が患者さんの死をどうしても受け入れられないこのような症例で、心停止したら、マスク換気のみ行い、そういう行為によっても患者の蘇生は困難であることを実際に見せることで、家族にその現実を受け入れてもらうという対応は、ありえることでしょうか?

回答:患者さんのご家族の心情を察すると、DNARのコード確認の作業を行う行為そのものが、家族の気持ちに対して、侵襲的であると思えてできなくなってしまう、ということは、多くの臨床医が経験してきたことだと思います。ただ、がん(悪性腫瘍)の看取りにおける心停止時に心肺蘇生を行っても、その救命率はほぼ0であることが示されています。よってこの行為は医学的に適応がない、ということです。蘇生できないと分かっていながら、みせかけの蘇生行為を行うこと(slow code)は、現在の臨床医学では、むしろ、倫理的に問題が多い行為であるとみなされています。
なぜなら、結果的に蘇生できないと分かっていながら、それを行うことは、やはり、患者に対する
嘘であり、誠実な医療行為とはみなされないからです。また、蘇生ができないと分かっていながら行うみせかけの行為によって患者さんの体(すでに死亡に至っている)を痛めつけることは、害の多い行為とみなされます。

そうかといって、家族のつらさを放置してよいわけでもなく、悲嘆のレベルが強い複雑性悲嘆の家族に対するケアを行うことによってこの問題に対応すべきです。そうしたお手伝いも緩和ケアチームの仕事の一部です。

まだまだ質問が続きました、ご紹介はこの辺まで、、、。
またご要望にそって、このようなカンファレンスを継続したいと思います。

(文責 関根)