2012年10月31日水曜日

日本癌治療学会

先週末は、日本癌治療学会が開催されました。当科からは濱口大輔医師が参加し、当院における肉腫患者への緩和ケアサポートの現状に関する後ろ向き研究を口演で発表しました。

発表では、聴衆からこのテーマについて、もっと本格的に研究したらどうか、という激励の声を頂いたようです。希少疾患である肉腫患者へのサポートは、最近国もようやく本格的なサポート体制を開始しているようですが、がん専門病院ではない地方の個々のがん拠点病院レベルでどのようなサポートが可能か、これからの課題です。多くのサポートが必要ですが、特にどの部分に重点的な緩和ケアサポートを肉腫患者に行っていくべきなのか、その方向を探るために、今後も継続してこのテーマを研究していく必要があります。

2012年10月30日火曜日

Dr. Moody's interactive session

昨日のムーディー先生とのセッションでは、前回こちらで話題にした、病院におけるオピオイド注射薬の残薬の処理方法の日米比較について話し合いました。

実はムーディー先生は、医師になられる前はナースとしてのキャリアがおありで、ずいぶん昔になるけれど、モルヒネなどのオピオイド注射液は、どれだけ使用したかチェックをした後、ナース自身の管理責任の下に、アンプルの場合は残薬は病棟で破棄していましたよ~、とのこと。

日本における麻薬注射薬の管理状況について、ムーディー先生としては、ナース管理での破棄ではなく薬剤部にその都度書類と整えてやりとりすることは、それだけ手間がかかるので、麻薬注射薬の定期や頓用処方のバリアに十分なりうるのでは、と私達の推測にうなずかれています。

このテーマについては、さらに情報収集を続け継続して大勢の方と意見交換を行い、麻薬の管理方法について現場からの意見をまとめて発信していけるとよいですね。


2012年10月26日金曜日

オピオイド注射剤の残薬は病棟で破棄すべきか?

日本では、皆さんご存知のとおり、医療用麻薬の管理、とくに注射剤は厳重に管理されています。
たとえばモルヒネ注射液1アンプルのうち一部分を使用した後は、使用量と残量を所定の用紙に記入後、病棟看護師が薬剤部に返却することになっています。
一方、あまり知られていませんが、米国の病院では、オピオイドのアンプルの一部分のみを使用しても、その残薬を処方された病棟の現場で破棄しているようです。

日本でオピオイドの注射剤のワンショット投与を定期処方や頓用処方として出しずらいことの大きな理由のひとつに、アンプルの中身を部分的に使った場合に、その都度所定の書類に記入し、毎回薬剤部に返却するというわずらわしい作業があることが挙げられます。

米国では、経口内服が困難な場合には、たとえばモルヒネ2mg iv q4h というような医師処方が日常的にみられるのですが、日本では殆どみかけることがありません。こんな処方を出したら、残薬の処理に手間をとられて病棟ナースから大ブーイングでしょう。医師としてもただでさえ多忙な看護師の仕事を増やすことは気がひけますから、このような指示を出すことは心情的にもないでしょう。

日本の人口1人あたりのオピオイドの総使用量が米国の20分の1であることは有名な話ですが、
注射剤の管理の厳重さ(煩雑さ)が、注射剤使用の敷居を高いものにしていることはあまり話題にもなっていません。

WHOがん疼痛治療方式は経口投与を原則にする、というものですが、中等度以上の痛みが持続するような場合や激しい突出痛に対しては、注射剤をしっかり活用して迅速な痛みのコントロールを図る選択肢が日常的に用意されている方が、患者のQOLにとっては大いにプラスになるでしょう。

わが国で、より良い痛み治療のために、注射剤を含めた医療用麻薬の管理を今後どのようにしていくべきか、国民全体での議論が必要です。                      (文責 関根)

2012年10月23日火曜日

Dr. Moody's interactive session

昨日のDr. Moody とのセッションは、医師の研修とキャリアにいかに臨床研究の機会を作っていくか、という話題になりました。Dr. MoodyがおられたUCSFでも内科レジデント研修の中でに臨床研究を奨励しており、多くの学会発表や論文掲載につながっている実績があるそうです。

日本の医学部出身者による研究は基礎研究関連の論文が殆どで、臨床研究の割合がとても少ないことは有名な話です。臨床医学の発展のためには、日本の臨床医学教育のなかに、無理のない形で、誰でも興味があれば臨床研究に関われるような体制づくりが今後の課題であると痛感します。そのためには何が足りないのか、どういう形が現実的に実現可能な仕組みなのか、継続的に話し合っていく必要がありそうです。


2012年10月22日月曜日

第2回 千葉県緩和ケアフォローアップ研修会

昨日は、午前午後のスケジュールで、第2回千葉県緩和ケアフォローアップ研修会があり、当院からは、医師、看護師、薬剤師が計7名(うちファシリテーター1名)参加しました。

全体の参加者は98名であったとのことですが、大多数が看護師で、医師の参加が若干少なく感じられました。また、参加者の半数近くは在宅関係者占められており、こちらは、今後の在宅緩和ケアの広がりを考えると、非常に好ましいことであると思います。

内容としては、患者さんの意志決定支援(アドバンスケアプランニング)、輸液、鎮静のケア、看取りのケアと盛りだくさんで、有意義な研修会でした。グループワークでは、症例検討を行いその結果を
シェアし合うという、参加型の研修でした。

講師やファシリテーターの先生方の熱意がひしひしと伝わる、温かみのある研修会でした。
欲を言えば鴨川から今回の開催地の幕張まで電車やバスでは2時間、車でも1時間半かかるので、木更津や君津あたりでもこの研修会を開催してもらえたら、鴨川組としてはありがたいなあ~と感じた次第です。

このような研修会が、もっと数多く開催されるようにと願います。企画担当、ファシリテーターの皆さまに心より感謝申し上げます。

2012年10月19日金曜日

社会保険中京病院での講演会

昨晩は、名古屋の社会保険中京病院で『緩和ケアにおけるナラティブメディシンと医療倫理』のテーマでお話をする機会がありました。社会保険中京病院は、除痛率をHPで公表している我が国でも数少ない病院であり、先日当院に講演に来てくださった吉本鉄介先生がいらっしゃる病院です。

当院で経験した3つの症例について患者さんの語り(ナラティブ)を紹介しつつ、苦痛に寄り添いながらサポートに努めたけれども倫理面で難しかった点を取り上げ、参加者と共有しました。

症例をベースに、医療倫理の四原則、Jonsenの四分割表、二重結果の原理、すべり坂理論、安楽死の四要件、治療の中止と差し控えにおける倫理的な考察、各学会の終末期医療のガイドライン、、といった重要な項目について復習しました。 

講演後に参加者から、医療者の側のナラティブの配慮はどうなっていますか?という鋭い質問があり、この点が緩和ケアにおいても重要なテーマであることを認識しました。困難な患者さんをサポートする場合には、患者さんを最大限サポートできるために、医療者は自らをケアし、互いにチームメンバーで困っているスタッフを助け合うような、日常の関係性やその仕組みが必要ですね。                                          

(文責 関根)

2012年10月15日月曜日

ジャーナルクラブ

今回のジャーナルクラブの文献は、7つのRCTシリーズの続きで、以下の論文を読みました。
Gade G, et al. Impact of an inpatient palliative care team: a randomized control trial. J Palliat Med. 2008 Mar;11(2):180-90.

米国のコロラド、ポートランド、サンフランシスコで実施されたものです。入院中の多職種緩和ケア介入(医師、看護師、ソーシャルワーカー、チャプレンからなるチーム)を行った群と、通常のケアの群との間で、QOL, 患者満足度、医療資源の使用状況、アドバンスケアプランニング(Advance Care Planning)の実施度について比較評価しました。対象患者は、担当医が疾患に関わらず予後予測が1年以内と判断した患者で計517人が参加。3箇所とも同じマネジドケア機関管轄の病院であったようです。

多職種緩和ケアコンサルト内容は、以下の6つの要素から成りこれにそってサポートを行ったとしています。1.現状把握,2. 医学的問題のディスカッション, 3. 終末期ケアにおいて患者が自分の目標をみつけられるように援助すること, 4.身体症状の評価と治療, 5.心理面、スピリチュアル面、実際的なニーズの評価と援助,6. 退院計画の評価。
一次アウトカムとしては、症状コントロール、感情面やスピリチュアルなサポート状況、患者満足度、介後6ヶ月時点の医療コスト。二次アウトカムとしては、生存の有無、退院時の事前指示の数、介入6ヶ月後のホスピス利用数を測定しました。

結果は、一次アウトカムのうち、症状コントロールは有意差がなく、患者満足度は向上し、医療コストは軽減されていました。二次アウトカムでは、退院時の事前指示の数が有意に上昇していました。
この研究では、リクルートされたがん患者の割合が半分以下(30%前後)ということで、日本では同じようにはいかないですね。

疾患別の表が提示されているのでそれらの合計を合わせてみると、100%にならないので
どうしたものかと、介入群と対照群について合計の患者数を計算してみると、おやっ?介入群と対照群が逆さまなのでは、と気づきました。これは早速執筆者に連絡しなくちゃっ!

以上、この論文も入院での多職種緩和ケア介入によって、患者の満足度は向上し、かかって医療費が少なくなった、との結果でした。生存日数の長さは、1次アウトカムにしておらず、これは緩和ケア研究の特徴ですね。皆さん覚えているでしょうか?緩和ケアの定義では、
緩和ケアは寿命を延ばすことも、短くすることも意図せず、自然の病気の経過にそってケアを行うということでしたね。この定義をふまえて緩和ケアの研究ではあえて、寿命は1次アウトカムには
しないということですね。あくまでも患者のQOLや満足度を第一の目標にします。

                                                   (文責 関根)

2012年10月12日金曜日

外来化学療法棟レクチャー

月1回の外来化学療法棟ナース対象の緩和ケア勉強会が本日ありました。

あるナースによるエッセイを題材に、医療現場における感情労働の現状について話し合いました。
自分の存在を脅かす病気に罹患した患者が、自己愛の傷つきから生じた荒れ狂う激しい怒りやつらさを医療者にぶつけることなど、ごく日常的なことです。特に患者ケアの最前線で働く看護師には相当なプレッシャーが向けられます。患者から否定的な感情をぶつけられた場合は、同じような感情の連鎖が医療者自身にも生じてしまうものです。しかしながら、どういう状況であれ、医療者には常に平静の心を持つことが求められており、それが時に非常に困難なため、大きな葛藤が生じます。自分はだめな医療者なのではないか、という自己嫌悪に陥いることもあります。もうこんな仕事はやめてしまいたい、と職場を離れる決心をする、ということにもなってしまいかねません。

そうした困難の多い仕事のストレスがあっても、医療者が日々仕事を続けるためには、仕事を頭から切り離せる気分転換の時間を確保することが必須です。また、チームの仲間が困難事例を気軽に話し合い、支え合える職場環境が求められます。
私たちの職場はそのような環境になっているでしょうか?一人ひとりが取り組むべき課題です。

2012年10月10日水曜日

緩和ケアコンサルト件数は何の指標?

連休明けの9日は、入院患者のコンサルト依頼が4件(内訳は癌が2件、非がんが2件)と忙しい一日でした。当院の緩和ケアチームでは、2007年度からの年間入院依頼件数は250件から350件くらいで推移しています。当院のがんの入院患者数は、おそらく約200人程度で、そのうち進行がんの患者数は、約半分程度の100人程度と見積もられます。がんセンターの統計などと比較して、入院患者あたりの緩和ケアチームへの依頼件数としては、そこそこの数字ではないか、とは思います。年々、入院の緩和ケアコンサルト依頼数が増えているかといいますと、最近は横ばいで推移しています。このことをどのように評価すべきか、とチームで話し合ったりしています。
当院には精神科がリエゾンチームがあり、緩和ケアチームとリエゾンチームの双方がカバーし合い、疾患によらず、つらさの強い患者、家族をサポートしています。リエゾンチームの活動は年々活発になってきているので、そちらでカバーしてもらっている割合が増えていることが、依頼件数が増えていない理由のひとつでしょう。
もう一つは、主治医の緩和ケア能力の向上により、比較的難易度の低い依頼の割合が減っている可能性が挙げられます。現に、これは喜ばしいことですが、主治医チームも緩和ケアをしっかり勉強するようになってきており、主科が困っているケースというのは、スピリチュアルペインへのアプローチや難易度の高い疼痛マネジメントや嘔気のコントロールであったりします。

こうした状況をかんがみると、私たち自身の専門性を常に向上させる努力が必要であること日々実感します。また、緩和ケアコンサルトの依頼件数は緩和ケアチーム活動の一つの指標ではあっても、その病院の緩和ケアの質を担保するものとはあくまでも異なることを私たちはよく認識しておく必要があります。私たちは、痛みの強い患者やつらさの強い患者を放置せずに、もれなくカバーする仕組みの一つとして機能すべき存在ですので、コンサルトが1件もなかったとしても、
痛みやつらさがしっかりと病院スタッフによって十分にケアされていればよいという視点も必要です。
病院の全スタッフに対して、基礎的な緩和ケアについて、継続的に教育していくことは、個々の患者さんのケアと同じかそれ以上に大切であることを忘れずに、横断的なサポートの仕組みづくりに一層力をいれていくべきと考えます。

2012年10月4日木曜日

スピリチュアルケア勉強会

本日のスピリチュルケア勉強会では、ハロルドG.コーニック著「スピリチュアリティーは健康をもたらすか」の抄読会の最終回でした。前回同様、医療者が入院中の患者に対して、日常的にspritual historyを聴取することが患者のスピリチュアルケアに不可欠である、と述べられていました。参加者の中から、日本では、患者自身が、そういったケアを受けられると思っていないので、チャプレンによるケアに対するニーズもないのでは?という意見がありました。参加者一同、そうかもね、という顔。でも当院には2004年から常勤のチャプレンがおり、疾患によらず、患者、家族のケアを担当されており、潜在的なニーズは結構あるのでは、という意見も。現在日本でもスピリチュアルケアを担当するチャプレンの専門研修制度の推進の動きがあるようですので、そちらの動向に注目です。

追記)松田チャプレンは2013年3月末をもって当院をご退職されました。8年間本当にありがとうございました。後任の先生がこられたら改めてブログでご紹介致します。

2012年10月2日火曜日

ジャーナルクラブ

先週のジャーナルクラブは、緩和ケア介入とQOLに関するRCT研究シリーズの3つ目。
Brumley R, Enguidanos S, Jamison P, et al. Increased satisfaction with care and lower costs: results of a randomized trial of in-home palliative care. J Am Geriatr Soc. 2007;55(7):993-1000. を読みました。

この研究では、在宅緩和ケア介入を予後1年以下が見込まれる患者に行っています。
通常、終末期の定義は予後6ヶ月とされますが、もっと早期から介入を開始した場合の評価をみていること、介入対象をがん患者と非がん(心疾患、呼吸器疾患)の両方を含めていることが特徴です。結果として、患者の満足度は向上。また自宅死割合が上昇、入院や救急受診回数は減少(総医療費は減少)しました。

この研究の気になる点は、介入群の方が対照群より生存日数が短かったことです。考察では、この原因に関する明確な理由について述べられていません。可能性の高い一仮説としては非がん疾患の場合は、なんらかの疾患特異的治療が存在しこれが施されうるため、救急受診や入院をすれば、生存日数が延長することが知られています。よって、もし非がん患者でも入院や救急受診回数が減少したことによって、非がん患者群でコントロール群より少し早めの多くの患者が死亡していた可能性があります。患者の満足度の高い医療と生存日数延長は全く別のアウトカムであるという現象がここでも見られています。

この研究は、米国の2つ州(ハワイ州とコロラド州)で実施されましたが、緩和ケア介入の研究では、救急受診や入院というのが好ましくないアウトカムであると位置づけられています。
一方、日本で行われた緩和ケアの遺族研究では、救急受診は否定的には受け止められていないことが分かっており、この点、日米の興味深い違いが浮き彫りになっています。

2012年10月1日月曜日

精神科・疼痛緩和ケア科合同抄読会

先週金曜日は、前回の続きで、井上ウィマラ先生のエッセイを読みました。井上先生は、日本とビルマでの仏教の修行期間を経て、欧米で瞑想を教えながら心理療法を習得された方です。

患者さんのスピリチュアルケアの実践には、患者と家族の関係(家系図)を掘り下げることが大切であること、また、患者の生育歴情報も重要な鍵になるといいます。また、ご自身の生育歴を振り返りながら、どうして今のような仕事をするようになったかを理解する作業についても触れられています。

キリスト教ではメメントモリ、仏教では死念という修行があるといいます。人はいつ死ぬか分からないということを忘れず、今ここに与えられた瞬間に感謝しながら、精一杯生きることが、日々の安心につながるということのようです。患者や家族にはそうしたことを要求することは難しいですがが、死に行く人に寄り添う作業をしっかりと行うためには、まずは自分自身にそうした心構えができているかどうか、日々問いかけるようなことが求められるのかもしれません。皆様はどうお考えでしょうか?