2013年7月22日月曜日

緩和リハビリの研修会報告

今月14日に、日本ホスピス緩和ケア協会(HPCJ)http://www.hpcj.org/
の年次大会があり、『緩和ケアとリハビリテーション』の分科会のファシリテーターを担当しました。

主にホスピス・緩和ケア病棟に勤務されている医師、看護師が多数参加され、リハビリ分科会にも90名弱の参加者が全国から集まりました。

まず、作業療法士協会理事の高島千敬先生(大阪大学付属病院)からホスピス・緩和ケア病棟におけるリハビリの実施状況に関する調査の報告がありました。

我が国の大多数のホスピス・緩和ケア病棟では、リハビリが実施されているものの、まだ十分に行き渡っているとは言えない状況にあること、医師も看護師もリハビリの重要性やニードを感じていること、家族からリハビリをしてほしいというリクエストが寄せられることがよくある、という結果でした。

続いて、リハビリ療法士の現場での取り組みとして、静岡県立静岡がんセンターの作業療法士 田尻和英先生と、聖隷三方原病院の理学療法士 緒方政美先生から講義がありました。
田尻先生のお話では、
・ホスピス緩和ケア病棟では、それ以前のリハビリ既往の有無を確認することが重要であること(リハビリを継続したい患者・家族のニードを見逃さないこと)
・スタッフ同士が顔を合わせて情報共有する大切さ
・関わるスタッフがリハビリによる成功体験を積み上げること
・誰がリハビリを提供するかが重要ではなく、協力しあい患者さんのQOLを支えるようにサポートしあうことが大切であること、

などの点が印象に残りました。

緒方先生のお話では
・患者のリハビリに関する希望の優先順位を明らかにし、その意向にそったメニューを検討すること
・実施内容に関しては、患者中心のアプローチのみでなく、家族が参加できるプログラムの調整も
 
 患者ケアのみならず、家族ケアの視点から重要であること
・聖隷と亀田で共同で実施したコホート研究で、緩和ケアで行うリハビリでは、ADLが下がってもQOLは維持されたり、向上する可能性が示唆されたことなど、理路整然とお話くださいました。

後半部のグループディスカッションも大いに盛り上がりました。代表的な意見としては、

・顔を合わせた緩和ケアスタッフとリハビリスタッフの意思疎通が不十分なこと
・ただ漫然とリハビリをしているが、患者のQOLに役立っているかどうかの検討が不十分なこと
・リハビリの算定は緩和ケア病棟ではできないが、可能な医療資源のなかでリハビリをやっていくには、看護師がリハビリと協力しながら、ともにリハビリアプローチを実践していく必要があること
・リハビリ療法士には、緩和ケアとはどういうものかをもっと勉強してもらう必要あり、看護師(医師)にはリハビリテーションについて勉強してもらう必要があり、ともに教えあい、学びあう姿勢が望まれること
・リハビリ療法士からの意見としては、緩和ケアのリハビリは敷居が高いところはあるものの、非常にやりがいはあるため、今後この領域で働く療法士は今は不足しているが、今後は数も増えていく見込みがあるとこと
・施設によって提供されているリハビリの内容も量も差が大きい。しかしながら、どの施設も、緩和ケアとしてのリハビリの重要性に気づき、今後も充実させていきたいと考えていること
・骨折患者を安全に管理したいが、患者が動きたい希望がある場合のリスク管理をどうするか、
より専門的な助言が緩和ケア病棟ナースにとって必要でありこのニードにこたえてほしいとのこと

などが出されました。

当院には緩和ケア病棟はありませんが、一般病棟の中で、緩和ケア目的のリハビリテーションを
積極的に実施しております。
これからも他施設と情報共有しながら、緩和リハビリのレベルアップを図っていきたいと思います。
(関根)






2013年7月14日日曜日

緩和ケア普及のバリア(がん治療医からの視点)

みなさま、毎日暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか?しばらくバタバタしており、ブログを更新できていませんでした。

日本緩和医療学会では、オレンジバルーンプロジェクトという緩和ケアの普及、推進活動を過去数年精力的に行なってきました。しかしながら、緩和ケアの普及には、緩和ケアにまつわる否定的な思いがバリアとなり、まだ十分に普及しているとはいえない状況です。

今回は、緩和ケアにまつわる様々な思いについて、考えてみます。

まず、がん治療医からの視点(緩和ケアチームの活動をどう見ているのか)はどうなっているでしょうか。私たちはがん治療医の先生方から緩和ケアコンサルトの相談を受けて緩和ケアサポートが開始となりますから、治療医が緩和ケアにどのような思いを持っておられるか、把握しておくことは非常に大切なことです。

がん治療医が緩和ケア(チーム)に相談しようか、、、と思いながらも、ためらう場合に感じていることには、以下のようなパターンがあるでしょう。
①『緩和ケアチームに相談しましょうと、緩和のことを持ち出すと、患者さんがそんなに病気が進行していると感じて、びっくりしてしまうだろう』 これは緩和ケアを末期ケアと捉えています。
こうした考えを治療医の先生方がもたれるのも無理はありません。実際に、私たちが、患者さんのところに伺うと、拒否的な反応を示される患者さんや家族も少なくないからです。“まだそんなに病気が悪くないのに、どうして緩和ケアチームなんかがここへやってきたんだ”、といわんばかりの冷たい態度の患者さんや家族もおられます。でもそのような、患者さんや家族の心情も病状の経過などを理解すれば、十分理解できることです。緩和ケアをどう考えるかは、物の考え方(価値観)の違いとも言えることなので、とやかく議論しないようにしています。ただ、“私たちが考えている緩和ケア”は、病状に関係なく係わるものであることを、機会があるたびに説明するようにしています。

①については説明の仕方の工夫がこれから必要であることを示しています。
日本緩和医療学会では、新しい説明文を募集しています。みなさんもよいアイデアを出してみませんか?
http://www.kanwacare.net/newphrase/


②『緩和ケアチームに相談しても、何がよくなるのだろう。主治医以外の医師や看護師が係わるとかえって患者さんや家族が戸惑うのではないか。。。。』これは緩和ケア介入効果についてまだ実感を持っていただけていない、つまりは私たちの力不足そのものです。数年前に、海外の一流雑誌でに発表されたのですが、米国の有名病院で、進行がんの患者さんに緩和ケア介入を行なった群と行なわなかった群で、生活の質や抑うつ状態を比較した臨床研究が行なわれ、緩和ケア介入群に軍配が上がる素晴らしい成果を示しました。まだまだ時間はかかりますが、日本でも同じような成果を積み上げれば、このバリアも克服できるでしょう。

③『緩和ケアチームに紹介したら、治療方針などに関して干渉されたりしないか。』
主治医チームとは別なチームが介入すると、主治医は治療方針の主導権を奪われるのではないか、と恐れてしまい、緩和ケアチームへ相談してもらえないケースも結構あると私自身は感じています。この懸念に関しては、全く心配ありません、と自信をもってお答えできます。
なぜなら、私たちは主治医チームのニードにそった介入を目指すからです。
最近では依頼を頂いた際に、どのような関わりや介入をご希望でしょうか?と依頼の意図をより具体的に把握するように努めています。
日本にはコンサルテーションの文化はまだ十分に根付いているとはいえない状況ですが、
守るべきルールがあり、コンサルテーションエチケットなどと呼ばれています。先月の日本緩和医療学会では、緩和ケアチームの手引きなる冊子を参加者全員に配布していました。一般公開されたら、こちらにも紹介したいと思います。

このテーマを次回以降も折にふれて扱っていきたいと思います。
(関根)