2012年12月28日金曜日

勉強会のお知らせ

がん・緩和ケア関連勉強会のお知らせです。


2013-2014年度は『マインドフルネス』がテーマです。


講師に高野山大学の井上ウィマラ先生をお迎えして、全4回シリーズで開催します。


第1回:医療者自身のセルフケア
第2回:自分自身と家族との関係性
第3回:生まれることの意味(周産期~老年期)
第4回:終末期とグリーフケアまで

第1回は2013年2月2日です。

“今という瞬間を意識的に生きる”

“今の自分をみつめ、自身の気持ち・状態に気づく”

という“体験”を通じて、自身が抱えるストレスに対応する方法を学んでいきます。

参加費は無料です。

どうぞ奮ってご参加ください。




2012年12月26日水曜日

安房地域がん看護勉強会(在宅ケア)

12月21日は安房地域がん看護勉強会の最終回でした。
最終回のテーマは「在宅での看護の実際」です。
 訪問看護師は「家に帰りたい」という“ご本人の気持ち”と「家につれて帰りたい」と言う“ご家族の思い”を確かめ、その人の望む場所で最期の時までその人らしく生きることが出来るように寄り添い、支えています。この気持ちは病院の看護師も同じだと思いますが、医療・治療モデルから生活モデルでより個別対応できるのが訪問看護師さん達だと得意とするところだと思います。
 がん終末期の退院調整では、準備期間が短いこと、その短い期間で調整すべきことが多い(①意志確認②医療の継続③生活の継続)ことがあげられます。退院調整看護師もいますが、やはり病棟看護師でも出来る人から速やかに始めることが大切です。家族の介護力が在宅療養の鍵となります。本人は不安でも家族が家につれて帰りたいと希望される場合は自宅での看取りが可能となることが多いといわれています。また、自宅に帰ってから、訪問看護師さん達がかかわり、介護の不安を一つ一つ解消していくことでより安心して過ごすことができるため、病院で考えている以上にご自宅での介護はご本人だけではなく、ご家族にとっても安心したものとなります。ご自宅で過ごすことは、それだけで社会的苦痛やスピリチュアルペインを軽減するとも言われています。それは、ご自身が自分の存在を少しでも確認できるからです。在宅で最期まで過ごせることはとてもすばらしいことだと思います。だからといって、在宅ケアが全てとも限らないとも私は考えています。「どこで過ごしたいか」はそれぞれの価値観があり、一人ひとり違うし、家族関係によっても違うと思っています。しかし、「帰りたい」「帰してあげたい」と言う思いをキャッチし、時期を逃さず調整することが看護師の役割だと思いました。(千葉)
 

2012年12月22日土曜日

がん告知を取り巻く状況の変化に想う ~スピリチュアルケア勉強会より

死にゆく患者の心に聴く―末期医療と人間理解今週木曜(12/20)に、月2回開催のスピリチュアルケア勉強会がありました。現在は、柏木哲夫先生のご著書、『死に行く患者の心に聴く』(中山書店)を抄読しています。柏木哲夫先生は、日本のホスピス緩和ケアの歴史を作ってこられた緩和ケア従事者では、知らない人はいないような、この分野の第一人者の先生です。

昨日読んだ一章は、“がん患者への告知”がテーマでした。ホスピスに入所してきた男性がん患者には告知がなされておらず、妻は告知には当初反対していました。しかし、残された時間のQOLをより良いものにするために、告知をすべきであるとの結論に達し、医師は、この男性患者に病名の告知を行います。ここで紹介されているのは、いわゆる“段階的な告知”のプロセスです。最初に、“あなたには腫瘍があるようです”という言葉を患者に投げかけます。その後、患者から、“それは悪いのですか?”という問いがなされます。医師は、“・・・かなり悪い”と返答。これに患者は自分の病気は“がん”なのでしょう?と。医師は、“・・・・そうです”、と答える展開。

しばらくして、今度は男性が予後について、“自分にはこの先の準備があるので、知っておきたい。あとどのくらいでしょうか?”と問います。医師は、“年単位ではなく月単位でしょう” と。“どのくらいか?”と患者が問うと、医師は、“数ヶ月でつらい波がくるかもしれない” その後、、今後は“1,2ヶ月が山でしょう”、と答えます。

柏木先生がこの本をお書きになられたのは、1990年代の前半なので、このやりとりは現在より20年も前のこと。抄読会では、20年前という時代背景も考慮して、現在だったらわれわれはどのように、同じ状況に対応しているだろうか、と話し合いました。20年前に私はまだ学生でしたが、あるディベート大会で、“がん患者に病名告知を行なうべきか否か”というテーマに関して、文献的なエビデンスを集めながら、議論したことをよく記憶しています。告知すべきかどうか、が議題になるくらいですから、告知派 vs 告知しない派、が二分していた時代です。

20年前と変わっていることと、変わっていないことがあることに気づきました。告知を取り巻く環境としては、私たち医療者は、以前に比べて格段に、悪い知らせを伝える(90%以上)ようになってきたという大きな時代の変化があります。がん告知が別段特別なことでもなくなった昨今、この本に書かれているほどの細心の注意と配慮をもって告知に臨むことは、少なくなっているとの反省が頭をよぎります。現在に比べてなんと細かい配慮をされているなあ、と感じたのは私だけではないはずです。

小出しに悪い知らせを段階的に伝える告知が日本人には向いているのではないか、とこの本の中で柏木先生は話しておられますが、その方が患者にとっては、心理的なショックも少なくて、受け止めもスムーズになるように思われます。

もう一つの疑問は、告知で婉曲的表現を用いるべきか、という点です。たしか、日本での告知関連の調査では、婉曲的表現を希望する日本人は少なくない、という結果があります。一方、婉曲表現のマイナス面として、曖昧な表現が病状認識のズレを助長しうる、という批判があります。

上記のような論点についてディスカッションするよい機会となりました。           (文責 関根)





2012年12月19日水曜日

看取りに必要な3つのこと ~大井玄先生の講演より~

今年の日本緩和医療学会の講演やセミナーの動画が学会HP上で閲覧できることをご存知でしょうか?(学会員の方限定ですが、、)

今年の特別講演は、長年、医師として看取りに従事されてきた大井玄先生のお話でした。
改めて動画で拝聴しましたが、長年の臨床のご経験と深い洞察に基づく味わい深いお話です。

看取りのケアで必要な3つのこと、、それは、
1. 患者さんに触ること
2.笑顔を作ること
3.相手の意味の世界に入ること

なのだそうです。

ひとりひとりの人間は、それぞれが、異なる意味の世界の住人として生きているという、という表現は、全くその通り、と思われてなりません。
究極的な個別ケアが求められる緩和ケアでは、患者さんのその人となりを理解することが何よりも重要です。その人が生きてきた意味の世界を知り、その世界に自分自身も身を寄せて共にいるような関係がケアを行なう上で求められるのかもしれません。

日々の臨床実践のなかでこのような感性を、自問自答しながら、磨いていきたいものです。



2012年12月18日火曜日

医学生・研修医・若手医師のための緩和ケアセミナー

ちょっと先ですが、来年3月10日に東京医科歯科大学で開催される、医学生・研修医・若手医師のための緩和ケアセミナーのお知らせです。

毎年、日本緩和医療学会では医学生、研修医、若手医師のための緩和ケアセミナーを開催しています。
http://www.jspm.ne.jp/seminar_m/seminar_m_1303s.html

対象者は、将来、緩和ケアの実践、研究を目指す医学生、研修医、若手医師(卒後10年目まで)となっています。

現在緩和ケアに従事している医師からの生の情報や、私のキャリアパスというタイトルで、各医師のたどった研修経路についての説明など、耳寄り情報が得られそうです。

このセミナー参加者に対して、日本全国の緩和ケア専門研修プログラム側からは研修に関する情報提供の機会が与えられているため、当院からも、緩和ケア専門研修(フェローシッププログラム)についての紹介を毎年行なっています。

興味のある方は、ぜひ参加されてみてはいかがでしょうか?

2012年12月14日金曜日

筑波メディカルセンター見学研修

昨日は、緩和ケアチームメンバー12名(職種内訳:医師、看護師、薬剤師、リハビリ、栄養士、チャプレン、事務。MSWと心理士は都合がつかず欠席。)で、筑波メディカルセンターの緩和医療科&緩和ケアチームを訪問し、見学と意見交換の機会を頂きました。

総論的なお話のあと、病棟見学に移り、その後は、職種別に意見交換を行いました。多忙な中、このような貴重な機会を与えて下さった筑波メディカルの緩和ケアスタッフの皆様、ありがとうございました。学んだことを今後に生かせるように、見学で学んだことをチームで改めてシェアし合う予定です。

2012年12月12日水曜日

緩和ケアは人権です!

治癒不可能な進行性の疾患がある場合に、痛みやつらさのケア(緩和ケア)を受けられることは、すべての人に保障されるべき権利(a human right)であることを、各国の政府によびかける、EAPC(欧州緩和ケア学会)によるネット上の請願書運動が始まりました。
http://www.avaaz.org/en/petition/The_Prague_Charter_Relieving_suffering

これに同意された方は、ぜひ上記サイトにアクセスされてサインしてください。

ここに書かれている文面にあるように、緩和ケアの対象疾患は、癌のみではありません。
心疾患などの臓器不全や感染症(HIV/AIDSなど)も含まれます。

また、レベルの高い緩和ケアが広く提供されるようになるには、緩和ケアの専門医研修制度の整備が必須であることもここにはしっかり書かれています。当院では、4年前から緩和ケアフェローシップを立ち上げて、専門医養成教育にも力を入れてきましたが、その理由は真にこのためです。

EAPCの熱意に習い、私達も現場から緩和ケアの必要性を訴えていきたいと思います。

2012年12月4日火曜日

『よく困る痛みの診かた』レジデントノート12月号

【雑誌紹介】


12月号のレジデントノートは『痛み』がテーマです。
http://www.yodosha.co.jp/rnote/book/9784758105408/index.html



『第5のバイタルサイン』といわれる痛みについて、『ベッドサイドですぐに役立つように』という視点から、様々な痛みについて、わかりやすく体系的にまとめられた一冊です。

今回は当科で総論(関根)、各論(蔵本)の一部を担当させていただいています。

様々な『痛みの診かた』をまとめて知りたい方、お勧めです。

2012年12月2日日曜日

DNRとDNARの違いを説明できますか?

先日、箕岡真子先生の近著、『蘇生不要指示のゆくえ』を紹介しましたが、この本は医療者の皆さんにぜひ一読していただきたい一冊です。
たとえば、DNRとDNARの用語の何が違っているのか、あなたは正しく説明できるでしょうか?DNRはDNARの簡略した用語だと思っていませんか?この答えは、この本のP20~22に明快に解説されていますので、ここではあえて答えは触れないことにします。

現在当院では、院長指示により、事前指示委員会(第二次)が立ち上げられ、どのようにDNAR指示を院内で正しく適切に運用すべきか話し合いをしています。

当院は、先日JCI(joint commision international)の再審査を受審したところですが、JCIの元機関である米国JCAHOは1988年にすべての病院に対して、DNAR指示の公式なガイドライン作成を指示すべきであるとの項目を設けています。このように、DNAR指示を正しく運用していることは各病院にとっての必須項目とされるのです。

先日このブログで説明したように、日本の医療機関では、DNAR指示が一人歩きをしている状況なので、まずは一つひとつの用語を正しく理解してもらうように、各方面に教育していくことが何よりも大切ですね。




2012年11月22日木曜日

11/19 院内緩和ケアレクチャー ~終末期における鎮静

今週の院内レクチャーは、“終末期における鎮静” をテーマに扱いました。
教材は、緩和ケアフォローアップ研修会で用いられているものを使いました。

まず冒頭で、終末期の鎮静の治療やケアに関わったことがあるかどうか、と尋ねたところ、半数程度の聴講者が経験がある、と答えました。

医師、看護師、薬剤師らの多職種が集まり、症例について3回ほど、5分程度のディスカッションの時間をとって、症例ベースで患者の苦痛をどのように評価し、対応すべきか、また、鎮静が適応になるかどうか、について考えをまとめ、グループごとの意見を交換しました。

なお、この講義は、鴨川国保病院と安房地域医療センターにも中継され、この2施設の参加者とも
意見交換を行いました。

1時間の枠の中では、消化しきれないほどの多くの内容でしたが、参加してくださった皆さんにとって有意義な学びの機会になったでしょうか?

一方向性の講義ではなく、グループディスカッションの時間を設け、それぞれが意見を発表しあうような形式の方が、やはり参加者の学習意欲が刺激されますし、多職種間のコミュニケーション促進にとっても有益であると今回も実感できました。

今年度の院内レクチャーも、あと残り2回となりましたが、終盤戦も頑張りましょう。


清水わか子先生講演会

先週金曜日(11/16)に、お隣のがん診療連携拠点病院である、君津中央病院で放射線治療医としてご活躍の清水わか子先生による講演会が当院で開催されました。

タイトルは『放射線治療と症状制御: by radiation と for radiation 』です。

清水わか子先生は緩和ケア研修会のマスターファシリテーターとして日本各地でご活躍ですが、この講演会では、先生のご専門領域である放射線治療に関する基礎的な事項から、個々の症例でどこまで治療が可能なのか、どのような個別対応が可能かといった内容まで分かりやすく明快にお話下さいました。

とりわけ印象的だったのは、先生が患者さんやご家族と納得のいくコミュニケーションをとりながら、最善の治療方針を絶妙のさじ加減で組み立てておられることです。

緩和的放射線治療という用語については、治癒に近いところまで目指せるケースから疼痛緩和のみが目的の場合まで広範囲の治療を含むため、先生ご自身はこの用語を使わないようにされているとのこと。

放射線治療の領域でも過去のエビデンスは、時間が経過しているため、患者の治療予後予測などは、データ通りにはならない傾向にあること、エビデンスが少ない部分に関しては、最新の知識と
技術を駆使して、治療における利益とリスクと天秤にかけながら、治療方針を決めておられるとのことです。

一言で放射線治療といっても、治療ゴールによって治療内容は異なることが分かりました。また放射線治療領域では、治療医の専門性や力量によっては、患者が受けられる治療内容が違ってくる可能性も大いにあること、についても今後の課題であると感じました。

清水先生、ご多忙な中貴重なご講演ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。







2012年11月19日月曜日

小児緩和ケア教育研修

緩和ケアチームのための小児緩和ケア教育研修(Care for Life-threatening Illness in Childhood Pediatric PalliativeCare Education Program for Palliative Care Team=CLIC-T)に参加してきました。http://kanwaedu.umin.jp/clic-t/ 


場所は大阪市立総合医療センター。
全国から80名弱の医療者が集い、上記サイト内の学習項目を集中的に学んできました。


『小児緩和ケア概論』では、成人との共通点や違いを確認しながら、小児ならではの問題(経過の多様性や成長と発達における問題、倫理的問題や家族ケア)について考えました。成人と違って、疾患が多岐にわたる(がんだけではない)ことや、子どもは発達・成長すること、自己決定権の問題、重大な病気を患った子どもの親御さんや兄弟姉妹の気持ちの問題等々、決して容易ではありませんが、それでもチームとしてサポートすることの重要性を強く感じました。

『小児の疼痛』では、痛みの評価、治療を症例をベースに考える形で学びました。成長・発達段階での痛みの体験は長期的に悪影響を及ぼすという報告も複数あり、大人同様に適切な評価・治療が必要です。しかし、子どもの訴える痛みは、コミュニケーションの難しさから(大人以上に)過小評価されやすいということもまた事実です。
ここでは小児の疼痛に対する適切な評価と有用なツール、治療面では今年改訂されたWHOの小児疼痛ガイドライン(ICPCNのサイトから無料で閲覧できます➡WHO guidelines on the pharmacological treatment of persisting pain in children with medical illnesses
をベースに、2段階の治療(成人ラダーは3段階ですが小児は2段階)や、非オピオイド・オピオイドの推奨薬や開始量等々、成人と共通する部分・異なる部分を意識しながら学びました。その他にも両親の関わりを担保することや、非薬物的ケアについても考えさせられるセッションでした。

『小児医療と倫理』では、(成人にとっても十分にデリケートな話題である)延命治療の是非や治療の中止・差し控えの問題について、小児のケースで状況の異なる症例をグループで話し合いました。倫理理論における帰結主義(結果の善し悪しによって判断)や義務論(結果によらず従うべき義務に則る)や医療倫理の四原則、欧米での治療中止・差し控えの現状、ガイドラインや判例も組み込まれた、とても濃いセッションでした。

『死が近づいたとき』では、やはり症例をベースとして①症状緩和②ケアの見直し③家族との対話のポイントをグループで話し合いました。子どもだから苦痛を感じない、ということはなく、最後の1ヶ月ではその多くが成人と同様に疼痛、倦怠感、呼吸困難などの苦痛を感じているという報告があります。このような状況下でできること・やめたほうがいいことは何か、鎮静の問題、本人・家族に対していつ何をどの程度共有しておくべきか、などについて、話し合いました。

『ビリーブメント(親しいものとの死別)』では、子どもを亡くすということが家族にどんな影響を及ぼすのか、どのようなケアが好ましいのか、医療者の役割とは何か、患児の兄弟姉妹へのケアなどについて考えました。また、後半ではがんの親を持つ子どもへのケアについて、何をいつからどのように伝えるか、避けるべきこと、子どもに病気のことを話すヒントなどについても紹介していただきました。

非常に有意義な一日でした。

これだけの研修会を企画運営してくださった関係者の皆様に心から感謝するとともに、このご苦労に報いるためにも、現場でこれを活かしていきたいと思います。



2012年11月13日火曜日

緩和ケア研修会@三井記念病院

だいぶ寒くなってきました。

この時期は学会や研修会が数多く開催されるシーズンでもあります。

その中の一つに『がん緩和ケア基礎研修会』というものがあります。

この研修会は国のがん対策基本計画のもと、5年前から主に全国のがん拠点病院などで定期的に開催されているものです。(緩和ケア継続教育プログラム『PEACEプロジェクト』

日曜は都内秋葉原にある三井記念病院におじゃましてきました。

ここには当科フェローシップを修了したH先生が赴任されており、そのご縁で昨年から研修会のお手伝いをさせてもらっています。

三井記念病院というと、なんとなく“心臓(循環器)に強い病院”、というイメージなのですが(日経ではこんな特集も組まれていましたhttp://ps.nikkei.co.jp/toshiba/mitsui/index.html)、実は緩和ケアにも非常に力を入れている病院です。
もちろんH先生や緩和ケアチームメンバーの日々の努力によるものと思いますが、第一回の研修会には院長の高本先生自らも参加されたそうで、まさに職員一丸となって緩和ケアに取り組もうという姿勢が感じられます。

ちなみに高本院長は昨年(第2回)も今年も研修会にお越しになり、参加者・スタッフへの労いの言葉とともに修了証を手渡していました。
最後に、
『緩和ケアを必要としているのは、がん患者さんだけではありません』
『緩和ケアは私たちが日頃行っている医療の根底を支えるものだと思っています』
と話されていたのがとても印象的でした。

昨年同様、とても心温まる研修会でした。

聞けば三井記念病院では、スタッフから上のクラスの医師はほぼこの研修を修了しつつあるそうで、次回以降は2年次研修医の参加をさらに促したり、地域の医療者の方々にも門戸を開いていくことを考えているそうです。

当院も来年1月に緩和ケア基礎研修会を開催する予定であり、これに向けてしっかり準備を進めていきたいと思います。

2012年11月12日月曜日

緩和的抗がん治療をうける患者の病状認識調査から分かったこと

先月のニューイングランドジャーナルオブメディシンで報告されていた高度進行がん患者の、緩和的抗がん剤治療に関するコミュニケーションに関する文献に関する評論です。
http://blogs.plos.org/workinprogress/2012/11/07/why-do-people-with-advanced-cancer-undergo-chemotherapy/

緩和的抗がん剤治療を受けている患者は、その治療についてどこまで理解しているのでしょうか、どのようなコミュニケーションを行う医師を好ましいと判断しているのでしょうか?この研究は、これらの点について全米各地で調査を行いました。米国の今回の研究で、多くの患者(半数以上)が緩和的抗がん剤治療で、病気が治るという認識を持っていたという結果がでています。

率直な話を杓子定規にすればよいというわけもありませんし、かといってあまりに非現実的な考えがでてきてしまうような説明では、残された時間をしっかり生きることに支障が生じてしまいます。
患者の性格や家族の意向によっても、説明や伝え方について配慮が必要ですから、この部分こそ、まさに医師としてのアートの力量が試される部分なのだ、と思います。

本日のDr. Moodyとのセッションもこの論文について話し合いました。米国では、悪い知らせを伝えるコミュニケーションのための教育やワークショップがこれまでさかんに行われてきたけれども、それにも関わらず、この文献のように、多くの患者が誤った認識をもっていることを示したこの研究は、この問題の複雑さ、難しさを物語っているという御意見でした。
米国では医師は家族への説明はともかく、患者自身にいかに病状について伝えるか、という点に大変多くの労力を使い、心を砕きます。患者が自分の病気について、知らないことは、
大切な自己決定権の侵害になり、自分自身が将来の生活プランを立てることができなくなるからです。そうした米国でさえ、進行がんにおけるコミュニケーションの結果がこのような状況なので、
日本で同じ研究を行ったら、もっと現実と病識のズレが大きいという結果になるように思います。

患者の側にしてみれば、悪い知らせを伝えられておらず、やさしく応対してくれる医師を好ましい医師であると、当座は思うことでしょう。この研究では、現在抗がん剤を受けている時点での患者の医師への評価を問うているわけです。ただ、もっと後になって、患者に率直なコミュニケーションをされた場合とそうでなかった場合に、どのように医師からのコミュニケーションを振りかえるのでしょうか?あの時に医師が率直に話をしてくれたおかげで、自宅で良い時間が過ごせた、と思う患者も中にはいるかもしれず、今回の研究は、そうした後々になっての評価については調べておらず、この点についてはなんともいえません。

多面的な問題を含み、結論がでなさそうなこのテーマですが、引き続き周りの関係者や、一般の方も含めて話し合っていくことが必要です。(文責 関根)











2012年11月6日火曜日

DNAR指示が一人歩きをはじめるとは?~箕岡真子先生の講演会より~

先週11月1日に、東京大学大学院 客員研究員の箕岡真子先生による終末期ケアにおける医療倫理と題する講演会がありました。これは、当院の倫理問題検討委員会が主催したものです。
折しも、当院で院内事前指示委員会が発足したばかりのタイミングでの講演でした。
ご講演は大変盛りだくさんの内容で、3回分の講義を1回分にまとめてくださったような内容の濃さでした。

箕岡先生は、『私の四つのお願い』という、一般者への事前指示ガイドを書かれた先生として
知られています。
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4863510357_1.html

また、一番最近では『蘇生不要指示のゆくえ』というDNAR指示についての御著書があります。
http://www.amazon.co.jp/%E8%98%87%E7%94%9F%E4%B8%8D%E8%A6%81%E6%8C%87%E7%A4%BA%E3%81%AE%E3%82%86%E3%81%8F%E3%81%88-%E7%AE%95%E5%B2%A1-%E7%9C%9F%E5%AD%90/dp/4863510527

DNAR指示がついたとたんに、医療現場では治療ゴールを巡って、患者・家族や医療者のそれぞれの立場から物語が発生します。箕岡先生は講演でこのことを“DNAR指示が一人歩きを始める”と表現されていました。こうした状況は、一般の人には殆ど知られていませんが、実は我々医療者が日常的に行っている医療行為における決定プロセスが倫理的に大きな問題をはらんでいることも少なくありません。まずは、一般の方にもそういった状況の存在を知ってもらい、この問題を自分たちの問題として考えてもらいたいとの思いで、この著書をお書きになられたとのことです。

日本臨床倫理学会という学会が新たに立ち上がったことも今回教えて頂きましたので、私も早速この学会に入会しました。こうした学会活動を通じて、現場での倫理的問題が広く話し合われ、今後の医療のあり方を国民が主体的に考える材料が提供されるように、現場の声を発信していきたいと思います。                                           (文責:関根)





2012年11月2日金曜日

緩和ケア科ー精神科抄読会

本日はこの書籍から⇒緩和医療における精神医学ハンドブック [単行本]

お題は『進行した疾患をもつ患者への個人精神療法』について。

・進行した疾患をもつ患者が(疾患によって)どんな苦悩を持ちうるのか
・精神療法の適応と種類

などを中心にディスカッションを行いました。

その中で話題になったのが『対人関係療法』。

これはうつや摂食障害にも有効性が示されているそうです。

つまり『重要な人間関係における葛藤や問題を解決すること』が、治療になる、ということです。

HIV陽性の患者さんや乳がんの患者さんに対する最近の研究でも『有用である』とのこと。

さらに治療や研究のためのマニュアルもあるそうです。

非常に興味深いですね。

具体的な方法などは、また次回のお楽しみということで。

O先生、来週も宜しくお願いします。

大西秀樹先生の講演会

家族ケアや遺族ケア外来のパイオニアである、埼玉医科大学国際医療センターの大西秀樹先生による講演会が、“がん医療における心のケア”と題して、今週月曜日に開催されました。

ご講演では、がん医療で、抑うつが身体症状のなかで見過ごされやすいこと、様々な改善困難な身体症状が抑うつ関連症状である場合に、抑うつへの薬物治療が奏功しうることなど、サイコオンコロジーにおける重要なポイントをご教示くださいました。

ご講演の後半部は、患者さまやご遺族へのケアの実例の紹介でした。
うまくケアできた症例と、困難な症例をともにご紹介くださり、医療者としていかようにアプローチしても困難な症例がやはり存在するということ、医療者の限界を知ることの大切さ、チーム医療でサポートし合うこと、困った症例に出会ったらその困難について仲間と話し合うことの大切さ、などについて
分かりやすく解説してくださいました。

埼玉北部から南房総の鴨川へと、関東平野の対角線を横断して来てくださった大西先生ですが、
当院の霊安室をご案内中には、正面の窓に真ん丸の月が浮かんでおり、一同、固唾を呑んでその光景にしばし見とれておりました。

今回のご講演を契機に、家族や遺族へのケアについて学びを少し深くすることができました。
大西先生、ありがとうございました。

※大西先生のことをもっと知りたい方のために参考になるサイト。先生の温かさがにじみ出ています。
『愛する人を失った悲しみとどう向き合ったらよいのだろう 大西秀樹先生 インタビュー』
http://www.hiruru.net/saitamamduniv/2011/01/psycho-oncology01.html

2012年10月31日水曜日

日本癌治療学会

先週末は、日本癌治療学会が開催されました。当科からは濱口大輔医師が参加し、当院における肉腫患者への緩和ケアサポートの現状に関する後ろ向き研究を口演で発表しました。

発表では、聴衆からこのテーマについて、もっと本格的に研究したらどうか、という激励の声を頂いたようです。希少疾患である肉腫患者へのサポートは、最近国もようやく本格的なサポート体制を開始しているようですが、がん専門病院ではない地方の個々のがん拠点病院レベルでどのようなサポートが可能か、これからの課題です。多くのサポートが必要ですが、特にどの部分に重点的な緩和ケアサポートを肉腫患者に行っていくべきなのか、その方向を探るために、今後も継続してこのテーマを研究していく必要があります。

2012年10月30日火曜日

Dr. Moody's interactive session

昨日のムーディー先生とのセッションでは、前回こちらで話題にした、病院におけるオピオイド注射薬の残薬の処理方法の日米比較について話し合いました。

実はムーディー先生は、医師になられる前はナースとしてのキャリアがおありで、ずいぶん昔になるけれど、モルヒネなどのオピオイド注射液は、どれだけ使用したかチェックをした後、ナース自身の管理責任の下に、アンプルの場合は残薬は病棟で破棄していましたよ~、とのこと。

日本における麻薬注射薬の管理状況について、ムーディー先生としては、ナース管理での破棄ではなく薬剤部にその都度書類と整えてやりとりすることは、それだけ手間がかかるので、麻薬注射薬の定期や頓用処方のバリアに十分なりうるのでは、と私達の推測にうなずかれています。

このテーマについては、さらに情報収集を続け継続して大勢の方と意見交換を行い、麻薬の管理方法について現場からの意見をまとめて発信していけるとよいですね。


2012年10月26日金曜日

オピオイド注射剤の残薬は病棟で破棄すべきか?

日本では、皆さんご存知のとおり、医療用麻薬の管理、とくに注射剤は厳重に管理されています。
たとえばモルヒネ注射液1アンプルのうち一部分を使用した後は、使用量と残量を所定の用紙に記入後、病棟看護師が薬剤部に返却することになっています。
一方、あまり知られていませんが、米国の病院では、オピオイドのアンプルの一部分のみを使用しても、その残薬を処方された病棟の現場で破棄しているようです。

日本でオピオイドの注射剤のワンショット投与を定期処方や頓用処方として出しずらいことの大きな理由のひとつに、アンプルの中身を部分的に使った場合に、その都度所定の書類に記入し、毎回薬剤部に返却するというわずらわしい作業があることが挙げられます。

米国では、経口内服が困難な場合には、たとえばモルヒネ2mg iv q4h というような医師処方が日常的にみられるのですが、日本では殆どみかけることがありません。こんな処方を出したら、残薬の処理に手間をとられて病棟ナースから大ブーイングでしょう。医師としてもただでさえ多忙な看護師の仕事を増やすことは気がひけますから、このような指示を出すことは心情的にもないでしょう。

日本の人口1人あたりのオピオイドの総使用量が米国の20分の1であることは有名な話ですが、
注射剤の管理の厳重さ(煩雑さ)が、注射剤使用の敷居を高いものにしていることはあまり話題にもなっていません。

WHOがん疼痛治療方式は経口投与を原則にする、というものですが、中等度以上の痛みが持続するような場合や激しい突出痛に対しては、注射剤をしっかり活用して迅速な痛みのコントロールを図る選択肢が日常的に用意されている方が、患者のQOLにとっては大いにプラスになるでしょう。

わが国で、より良い痛み治療のために、注射剤を含めた医療用麻薬の管理を今後どのようにしていくべきか、国民全体での議論が必要です。                      (文責 関根)

2012年10月23日火曜日

Dr. Moody's interactive session

昨日のDr. Moody とのセッションは、医師の研修とキャリアにいかに臨床研究の機会を作っていくか、という話題になりました。Dr. MoodyがおられたUCSFでも内科レジデント研修の中でに臨床研究を奨励しており、多くの学会発表や論文掲載につながっている実績があるそうです。

日本の医学部出身者による研究は基礎研究関連の論文が殆どで、臨床研究の割合がとても少ないことは有名な話です。臨床医学の発展のためには、日本の臨床医学教育のなかに、無理のない形で、誰でも興味があれば臨床研究に関われるような体制づくりが今後の課題であると痛感します。そのためには何が足りないのか、どういう形が現実的に実現可能な仕組みなのか、継続的に話し合っていく必要がありそうです。


2012年10月22日月曜日

第2回 千葉県緩和ケアフォローアップ研修会

昨日は、午前午後のスケジュールで、第2回千葉県緩和ケアフォローアップ研修会があり、当院からは、医師、看護師、薬剤師が計7名(うちファシリテーター1名)参加しました。

全体の参加者は98名であったとのことですが、大多数が看護師で、医師の参加が若干少なく感じられました。また、参加者の半数近くは在宅関係者占められており、こちらは、今後の在宅緩和ケアの広がりを考えると、非常に好ましいことであると思います。

内容としては、患者さんの意志決定支援(アドバンスケアプランニング)、輸液、鎮静のケア、看取りのケアと盛りだくさんで、有意義な研修会でした。グループワークでは、症例検討を行いその結果を
シェアし合うという、参加型の研修でした。

講師やファシリテーターの先生方の熱意がひしひしと伝わる、温かみのある研修会でした。
欲を言えば鴨川から今回の開催地の幕張まで電車やバスでは2時間、車でも1時間半かかるので、木更津や君津あたりでもこの研修会を開催してもらえたら、鴨川組としてはありがたいなあ~と感じた次第です。

このような研修会が、もっと数多く開催されるようにと願います。企画担当、ファシリテーターの皆さまに心より感謝申し上げます。

2012年10月19日金曜日

社会保険中京病院での講演会

昨晩は、名古屋の社会保険中京病院で『緩和ケアにおけるナラティブメディシンと医療倫理』のテーマでお話をする機会がありました。社会保険中京病院は、除痛率をHPで公表している我が国でも数少ない病院であり、先日当院に講演に来てくださった吉本鉄介先生がいらっしゃる病院です。

当院で経験した3つの症例について患者さんの語り(ナラティブ)を紹介しつつ、苦痛に寄り添いながらサポートに努めたけれども倫理面で難しかった点を取り上げ、参加者と共有しました。

症例をベースに、医療倫理の四原則、Jonsenの四分割表、二重結果の原理、すべり坂理論、安楽死の四要件、治療の中止と差し控えにおける倫理的な考察、各学会の終末期医療のガイドライン、、といった重要な項目について復習しました。 

講演後に参加者から、医療者の側のナラティブの配慮はどうなっていますか?という鋭い質問があり、この点が緩和ケアにおいても重要なテーマであることを認識しました。困難な患者さんをサポートする場合には、患者さんを最大限サポートできるために、医療者は自らをケアし、互いにチームメンバーで困っているスタッフを助け合うような、日常の関係性やその仕組みが必要ですね。                                          

(文責 関根)

2012年10月15日月曜日

ジャーナルクラブ

今回のジャーナルクラブの文献は、7つのRCTシリーズの続きで、以下の論文を読みました。
Gade G, et al. Impact of an inpatient palliative care team: a randomized control trial. J Palliat Med. 2008 Mar;11(2):180-90.

米国のコロラド、ポートランド、サンフランシスコで実施されたものです。入院中の多職種緩和ケア介入(医師、看護師、ソーシャルワーカー、チャプレンからなるチーム)を行った群と、通常のケアの群との間で、QOL, 患者満足度、医療資源の使用状況、アドバンスケアプランニング(Advance Care Planning)の実施度について比較評価しました。対象患者は、担当医が疾患に関わらず予後予測が1年以内と判断した患者で計517人が参加。3箇所とも同じマネジドケア機関管轄の病院であったようです。

多職種緩和ケアコンサルト内容は、以下の6つの要素から成りこれにそってサポートを行ったとしています。1.現状把握,2. 医学的問題のディスカッション, 3. 終末期ケアにおいて患者が自分の目標をみつけられるように援助すること, 4.身体症状の評価と治療, 5.心理面、スピリチュアル面、実際的なニーズの評価と援助,6. 退院計画の評価。
一次アウトカムとしては、症状コントロール、感情面やスピリチュアルなサポート状況、患者満足度、介後6ヶ月時点の医療コスト。二次アウトカムとしては、生存の有無、退院時の事前指示の数、介入6ヶ月後のホスピス利用数を測定しました。

結果は、一次アウトカムのうち、症状コントロールは有意差がなく、患者満足度は向上し、医療コストは軽減されていました。二次アウトカムでは、退院時の事前指示の数が有意に上昇していました。
この研究では、リクルートされたがん患者の割合が半分以下(30%前後)ということで、日本では同じようにはいかないですね。

疾患別の表が提示されているのでそれらの合計を合わせてみると、100%にならないので
どうしたものかと、介入群と対照群について合計の患者数を計算してみると、おやっ?介入群と対照群が逆さまなのでは、と気づきました。これは早速執筆者に連絡しなくちゃっ!

以上、この論文も入院での多職種緩和ケア介入によって、患者の満足度は向上し、かかって医療費が少なくなった、との結果でした。生存日数の長さは、1次アウトカムにしておらず、これは緩和ケア研究の特徴ですね。皆さん覚えているでしょうか?緩和ケアの定義では、
緩和ケアは寿命を延ばすことも、短くすることも意図せず、自然の病気の経過にそってケアを行うということでしたね。この定義をふまえて緩和ケアの研究ではあえて、寿命は1次アウトカムには
しないということですね。あくまでも患者のQOLや満足度を第一の目標にします。

                                                   (文責 関根)

2012年10月12日金曜日

外来化学療法棟レクチャー

月1回の外来化学療法棟ナース対象の緩和ケア勉強会が本日ありました。

あるナースによるエッセイを題材に、医療現場における感情労働の現状について話し合いました。
自分の存在を脅かす病気に罹患した患者が、自己愛の傷つきから生じた荒れ狂う激しい怒りやつらさを医療者にぶつけることなど、ごく日常的なことです。特に患者ケアの最前線で働く看護師には相当なプレッシャーが向けられます。患者から否定的な感情をぶつけられた場合は、同じような感情の連鎖が医療者自身にも生じてしまうものです。しかしながら、どういう状況であれ、医療者には常に平静の心を持つことが求められており、それが時に非常に困難なため、大きな葛藤が生じます。自分はだめな医療者なのではないか、という自己嫌悪に陥いることもあります。もうこんな仕事はやめてしまいたい、と職場を離れる決心をする、ということにもなってしまいかねません。

そうした困難の多い仕事のストレスがあっても、医療者が日々仕事を続けるためには、仕事を頭から切り離せる気分転換の時間を確保することが必須です。また、チームの仲間が困難事例を気軽に話し合い、支え合える職場環境が求められます。
私たちの職場はそのような環境になっているでしょうか?一人ひとりが取り組むべき課題です。

2012年10月10日水曜日

緩和ケアコンサルト件数は何の指標?

連休明けの9日は、入院患者のコンサルト依頼が4件(内訳は癌が2件、非がんが2件)と忙しい一日でした。当院の緩和ケアチームでは、2007年度からの年間入院依頼件数は250件から350件くらいで推移しています。当院のがんの入院患者数は、おそらく約200人程度で、そのうち進行がんの患者数は、約半分程度の100人程度と見積もられます。がんセンターの統計などと比較して、入院患者あたりの緩和ケアチームへの依頼件数としては、そこそこの数字ではないか、とは思います。年々、入院の緩和ケアコンサルト依頼数が増えているかといいますと、最近は横ばいで推移しています。このことをどのように評価すべきか、とチームで話し合ったりしています。
当院には精神科がリエゾンチームがあり、緩和ケアチームとリエゾンチームの双方がカバーし合い、疾患によらず、つらさの強い患者、家族をサポートしています。リエゾンチームの活動は年々活発になってきているので、そちらでカバーしてもらっている割合が増えていることが、依頼件数が増えていない理由のひとつでしょう。
もう一つは、主治医の緩和ケア能力の向上により、比較的難易度の低い依頼の割合が減っている可能性が挙げられます。現に、これは喜ばしいことですが、主治医チームも緩和ケアをしっかり勉強するようになってきており、主科が困っているケースというのは、スピリチュアルペインへのアプローチや難易度の高い疼痛マネジメントや嘔気のコントロールであったりします。

こうした状況をかんがみると、私たち自身の専門性を常に向上させる努力が必要であること日々実感します。また、緩和ケアコンサルトの依頼件数は緩和ケアチーム活動の一つの指標ではあっても、その病院の緩和ケアの質を担保するものとはあくまでも異なることを私たちはよく認識しておく必要があります。私たちは、痛みの強い患者やつらさの強い患者を放置せずに、もれなくカバーする仕組みの一つとして機能すべき存在ですので、コンサルトが1件もなかったとしても、
痛みやつらさがしっかりと病院スタッフによって十分にケアされていればよいという視点も必要です。
病院の全スタッフに対して、基礎的な緩和ケアについて、継続的に教育していくことは、個々の患者さんのケアと同じかそれ以上に大切であることを忘れずに、横断的なサポートの仕組みづくりに一層力をいれていくべきと考えます。

2012年10月4日木曜日

スピリチュアルケア勉強会

本日のスピリチュルケア勉強会では、ハロルドG.コーニック著「スピリチュアリティーは健康をもたらすか」の抄読会の最終回でした。前回同様、医療者が入院中の患者に対して、日常的にspritual historyを聴取することが患者のスピリチュアルケアに不可欠である、と述べられていました。参加者の中から、日本では、患者自身が、そういったケアを受けられると思っていないので、チャプレンによるケアに対するニーズもないのでは?という意見がありました。参加者一同、そうかもね、という顔。でも当院には2004年から常勤のチャプレンがおり、疾患によらず、患者、家族のケアを担当されており、潜在的なニーズは結構あるのでは、という意見も。現在日本でもスピリチュアルケアを担当するチャプレンの専門研修制度の推進の動きがあるようですので、そちらの動向に注目です。

追記)松田チャプレンは2013年3月末をもって当院をご退職されました。8年間本当にありがとうございました。後任の先生がこられたら改めてブログでご紹介致します。

2012年10月2日火曜日

ジャーナルクラブ

先週のジャーナルクラブは、緩和ケア介入とQOLに関するRCT研究シリーズの3つ目。
Brumley R, Enguidanos S, Jamison P, et al. Increased satisfaction with care and lower costs: results of a randomized trial of in-home palliative care. J Am Geriatr Soc. 2007;55(7):993-1000. を読みました。

この研究では、在宅緩和ケア介入を予後1年以下が見込まれる患者に行っています。
通常、終末期の定義は予後6ヶ月とされますが、もっと早期から介入を開始した場合の評価をみていること、介入対象をがん患者と非がん(心疾患、呼吸器疾患)の両方を含めていることが特徴です。結果として、患者の満足度は向上。また自宅死割合が上昇、入院や救急受診回数は減少(総医療費は減少)しました。

この研究の気になる点は、介入群の方が対照群より生存日数が短かったことです。考察では、この原因に関する明確な理由について述べられていません。可能性の高い一仮説としては非がん疾患の場合は、なんらかの疾患特異的治療が存在しこれが施されうるため、救急受診や入院をすれば、生存日数が延長することが知られています。よって、もし非がん患者でも入院や救急受診回数が減少したことによって、非がん患者群でコントロール群より少し早めの多くの患者が死亡していた可能性があります。患者の満足度の高い医療と生存日数延長は全く別のアウトカムであるという現象がここでも見られています。

この研究は、米国の2つ州(ハワイ州とコロラド州)で実施されましたが、緩和ケア介入の研究では、救急受診や入院というのが好ましくないアウトカムであると位置づけられています。
一方、日本で行われた緩和ケアの遺族研究では、救急受診は否定的には受け止められていないことが分かっており、この点、日米の興味深い違いが浮き彫りになっています。

2012年10月1日月曜日

精神科・疼痛緩和ケア科合同抄読会

先週金曜日は、前回の続きで、井上ウィマラ先生のエッセイを読みました。井上先生は、日本とビルマでの仏教の修行期間を経て、欧米で瞑想を教えながら心理療法を習得された方です。

患者さんのスピリチュアルケアの実践には、患者と家族の関係(家系図)を掘り下げることが大切であること、また、患者の生育歴情報も重要な鍵になるといいます。また、ご自身の生育歴を振り返りながら、どうして今のような仕事をするようになったかを理解する作業についても触れられています。

キリスト教ではメメントモリ、仏教では死念という修行があるといいます。人はいつ死ぬか分からないということを忘れず、今ここに与えられた瞬間に感謝しながら、精一杯生きることが、日々の安心につながるということのようです。患者や家族にはそうしたことを要求することは難しいですがが、死に行く人に寄り添う作業をしっかりと行うためには、まずは自分自身にそうした心構えができているかどうか、日々問いかけるようなことが求められるのかもしれません。皆様はどうお考えでしょうか?

2012年9月26日水曜日

事前指示(advance directives)の啓発活動

本日は多職種カンファレンスで、亀田医療大学の足立智孝先生による事前指示(advance directives)のミニ講義がありました。復習ですが、事前指示の概念としては、まず事前の人生設計(advance life planning)があり、その次に、事前ケア計画(advance care planning)が検討され、そのために事前指示書が作成され、その事前指示書の中のひとつにリビングウィル(遺言)も含まれるという構図になります。

事前指示の決まったフォーマットを作成して患者さんに記入を促す取り組みをしている病院についての紹介がありました。このような先進的な取り組みから学びつつ、当院でもこのテーマについて、継続的に話し合いよりよい仕組みを模索していくことになります。

米国では、事前指示書は医療を受ける場合に頻繁に目にするごく日常的な存在です。米国ではプライマリケアの診療であっても、事前指示に関する書類が日々の診察時に自動的に配布されます。もちろん、米国人でこの書類の記入を終えている患者はごく少数派です。それでも事前指示書類を毎回医療機関を受診するたびに配布することには、患者教育の点で大きな意味があります。毎回書類を見るたびに、“ああ、このテーマね、、う~ん、今は分からないな。でもその時になったら考えるから”といった具合に事前指示の存在を知り、いつかは大切になり、これに向き合う必要があることを理解する助けになっているように思います。

当院でもこうした啓発運動をどうやって取り入れるか、これから話し合っていくべき課題です。

2012年9月24日月曜日

学会だより

第25回サイコオンコロジー学会が9/21,22に福岡で開催されました。当科より2演題,緩和ケアチーム心理士から1演題の合計3つのポスター演題を行いました。こちらに主発表者と演題をご紹介します。

・濱口大輔:進行性骨・軟部肉腫患者19例に対する緩和ケアの後方視的検討
・古賀由里恵:患者・家族間の意思の不一致により終末期鎮静に難渋した一例
・澤田俊子:緩和ケアチームにおける心理士の活動について~がん患者のグループ活動の報告~

発表者の皆様、お疲れさまでした。今回学会に参加できなかったメンバーにも、発表でのディスカッション内容や新たに学ばれた視点、今後の課題として認識されたことなど共有してくださいね。

ブログを始めました

みなさんこんにちは。

日頃から疼痛・緩和ケア科/緩和ケアナースのFacebookページをご覧いただきありがとうございます。

Facebookページでは目に見えない文字数制限があること、さらに投稿のカテゴリーができないなどの問題があり、このブログを立ち上げることにしました。

これから、当科の活動や抄読会・各種勉強会、日々の出来事などを随時アップしていきます。

Facebookページも引き続き更新していきますので、今後ともご愛顧の程、宜しくお願い致します。

 P.S. 近日中に緩和ケアサポートチームのオフィシャルブログも立ち上げる予定です。こちらでは主に患者さまに向けた情報を発信していきます。