2013年6月6日木曜日

機械式PCAポンプが普及しない理由

みなさん、PCAポンプを知っていますか?
Patient Controlled Analgesia (患者自己管理鎮痛法)の頭文字をとってPCAといいます。

このPCAには3つの設定モードがあります。
1.持続投与時間 :患者さんがボタンを押さなくても、自動的に投与される1時間当たりの薬の量
2.レスキュー量(PCAドーズ):患者さんがボタンを押したときに投与される薬の量
3,不応期(ロックアウト):1回薬が投与されてから、次にボタンを押して薬が投与されるようになる 
                までのロック時間。通常10~20分の設定が用いられる。誤ってPCAボ
                タンを押し続けても薬が投与されないようにする安全装置。

機械式PCAポンプは、上記の1,2,3を自由に設定できるため、シリンジ式PCAよりもより
フレキシブルなPCA管理が可能となります。当院では、35台をME室で管理してもらい、常時15~20台程度が稼働している状況です。

私が当院に赴任したのが、2007年2月ですからもう丸6年が経過しました。機械式PCAは当時から当院には存在しましたが、数台稼働している程度の利用でしたから、ずいぶん処方数が増えたものです。

当院のような、がん診療連携拠点病院では、より侵襲性の高いがん治療を行いますから、患者さんにとって負担の強い(苦痛や痛みが強い)治療の頻度も多くなります。この場合、治療と併行したより良い痛みのサポートを行うこと(強固なサポーティブケア)が、必須条件です。機械式PCAはそのために必須なアイテムですし、現在、当院に勤務する多くのがん治療医も同感だと思います。

2007年当初は、緩和ケア科が全てのPCAを処方していました。しかしながら、夜間や緊急的に対応が必要なケースにまで全ての症例に対して、緩和ケア科が自らPCA処方対応することは現実的ではありません。そこで、当院では緩和ケア科がPCAポンプの利用マニュアルを作成し、それに沿って、がん診療科から必要時に自由にPCAを処方してもらっています。その結果、6年経過した現在では、PCA処方はその殆どが各診療科医師によって始められる状況にまで、普及、浸透しました。

各医師が自由にPCAを処方していて、安全面の担保は大丈夫か?、という指摘もあるかと思います。週1日、オピオイド処方を受けている全患者をカルテ上でチェックしていますので、リスクの高いPCA処方に関しては、このオピオイドサーベイランスでチェックするようになっています。ただ、これだけでは十分に安全性が確認できているとは言えず、この点については、最近発足した院内緩和ケア運営委員会で話し合う予定です。

このようにがん治療に必須である機械式PCAなのですが、残念ながら、日本全国を見渡すとこの機械式PCAポンプは普及していません。どうしてなのでしょうか?この最大の理由は、おそらくコスト面にあると私は感じています。

機械式PCAで用いる使い捨てタイプのプラスチック製の薬液カセット代は病院持ち出しであり、1カセットあたり、3000~5000円もするということを皆さんご存じでしょうか?麻薬注射剤の薬液量をどの程度頻回に交換するかによりますが、毎日交換となると、毎日3000~5000円が病院からの持ち出し(純支出)になってしまいます。これでは、機械式PCAのメリットを理解していたとしても、積極的に利用する施設が増えないのも理解できますね。なんとか、この状況が早く変わってほしいと思っています。

幸い、緩和ケアチームがPCA利用患者に関わる場合では、緩和ケアチーム診療加算がとれる施設であれば、1日あたり400点の加算がとれますので、カセット代程度はまかなえることになります。現時点では、緩和ケアチーム加算を有効に利用する他には、機械式PCAのコストをまかなう方策は見あたりません。

痛み医療の向上には、コストもそれなりにかかりますから、我が国が痛み医療の全般的な向上をめざし、その対策を本気で議論するのであれば、それに見合う金銭面での改善策も不可欠です。
(関根)




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