2013年6月8日土曜日

在宅緩和ケア普及のバリア まずはブレインストーミングから。

今月1日に第22回滋賀緩和ケア研究会で、病院における緩和ケアと地域における緩和ケアのつながり、というテーマでお話させて頂く機会がありました。
http://jpps.umin.jp/course/file/130601_shiga22.pdf

在宅看取りがどうして増えないのか、については様々なところで議論がなされています。
8~9割のがん患者が急性期病院で最期を迎えている現在、この数字を減らして在宅看取りを増やす(現在の7%程度から、20%程度に?)、と政府や在宅緩和ケア関係者はお題目のように唱えていますが、はたしてそれは現実的なことでしょうか?

私たちは自身の家族(両親など)のために自ら仕事を休んで、自宅介護で看取ることは果たしてできるでしょうか?自分ができそうもないことを、他人に強く勧めるということは、倫理的にどうなのでしょうか?他でもない、親の看取りとあらば、仕事を長期間休んでも自ら在宅で家族の世話をする決断をする医療者はおそらくかなり少数派ではないでしょうか。在宅医療の問題は、まず自分が当事者ならどうするか、という視点を持って考えることが大切だと思います。

高い目標を挙げることは結構ですが、まず、それぞれの医療圏の関係者が、在宅緩和ケアの実績や現状がどうなのかを知るところから始めなければならないでしょう。

当院がカバーする安房地域の人口あたりの在宅看取り数は県内で群を抜いて高く、2008年の統計では、千葉県平均(人口10万人あたり約17人)の4倍近くの実績(人口10万人あたり70人以上)があります。安房地域の高い高齢化率を差し引いても、在宅看取りが他の地域より普及しています。

当院には併設の在宅医療部が、館山には亀田ファミリークリニック館山があり、それぞれのスタッフが、南房総地域の在宅緩和ケアの多くの部分をカバーしています。当院以外にも、有床診療所として専門的な緩和ケアを提供されている花の谷クリニックをはじめとした、緩和ケアに熱心な地域医師が数多く存在します。このように、恵まれた医療資源の存在によって、県内一の在宅緩和ケアの普及が達成されていることは明らかです。

このように、千葉県でもっとも在宅緩和ケアが普及、浸透した安房地域にあっても、当院の緩和ケアチームは決して現状に満足してはいません。改善策を講じるためには、在宅緩和ケア普及へのバリア因子を同定し、その各々に対する介入プランを立てなくてはなりません。

この講演会では、このバリアを6つの側面から分けて以下のように列挙してみました。
①在宅緩和ケアの医療資源不足(地域偏在)
②病院側のシステム面の問題
ソーシャルワーカー不足
マンパワーを手厚くする余裕がない
医師が抱える業務が多すぎる
“早期からの緩和ケア”が行える仕組みがない
早期からの緩和ケアに関する理解がない
経済面の影響についての検討が未実施
患者満足度への影響についての検討が未実施
③がん治療病院と在宅施設の連携関係が薄い
連携するべきメリットを感じていない
互いの診療内容を理解していない
④病院医師(医療者)の言い分
時間と労力を使って在宅医療につなげる体制がない
患者を良く知らない在宅医に任せるのは、無責任だ
安心して任せられる在宅医を知らない。
在宅医療の希望を主張する患者(家族)は多くない
在宅看取りを勧める根拠や確信がない (家族や親戚の在宅看取り経験がないので、 患者(家族)へ積極的に勧める動機づけもない)
⑤在宅医側のバリア
24時間365日拘束で終末期がん患者の看取りをする体力がない(単独開業医の高齢化)
がんの看取りをしなくても、収入面で困らない
がん患者の困難症状に対応できない
がんの痛みのケアなどに慣れていない
オピオイド処方に慣れていない
症状悪化時の入院保証がない
⑥患者(家族側)の因子
介護力がない(老老介護、複数人介護)
家族に負担をかけたくない。(医療者方が気楽)
介護士のマンパワー不足
介護休暇がとれない(休むと解雇?)
病状急変時にどうしたらよいか分からない
病院の方が安心
そこまで自宅に愛着はない
近所の目が気になる
施設で最期を過ごして何が問題なのか分からない
自宅死を積極的に希望する理由がない
 
沢山のバリア因子があり、うんざりされたことでしょう。改善可能な因子と、なかなか難しそうな因子の両方が存在します。上記のバリア因子の中から、明日からでも始められそうな介入があれば、まずはそれを実践してみることから始めてみてはどうでしょうか?上記の一つ一つのバリア因子自体が、様々な議論を要するテーマになりうるものです。これから、このバリア因子の中から特に興味のあるテーマを取り上げて、個々にその内容について吟味していきたいと思います。
(関根)
 
 











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